私たちが日々使っている「漢字」。
その一文字一文字には、数千年の歴史と深い意味が隠されています。
古代中国の神話や文化、日本での独自の発展、そして現代の暮らしにまで息づく文字たち。「白」や「美」、「幸」など、身近な字にも驚くような由来や物語が詰まっています。今回は、そんな漢字の起源・成り立ち・読み方にまつわる雑学をまとめて紹介します。
知れば知るほど奥深い“文字の世界”を、ぜひ一緒にのぞいてみましょう。
目次
- 漢字の起源・歴史・成り立ちに関する雑学
- 難読漢字・当て字・読み方に関する雑学
- 18. 「幽霊文字」「ウソ漢字」の存在
- 19. ヘラクレスの漢字は「赫拉克勒斯」
- 20. 豆腐は腐っていないのに「腐」
- 21. 「鳩」は鳴き声「クー」が由来
- 22. 猫や蚊の漢字は鳴き声が由来
- 23. 「胡」が付く食材はシルクロード由来
- 24. 「赤の他人」の「赤」は色でない
- 25. 「黄色い声」は甲高い音の意味
- 26. 「大坂」が「大阪」になった理由
- 27. 「寿司」は縁起を担いだ当て字
- 28. 「珈琲」はオランダ語の音写
- 29. 夜露死苦や愛羅武勇は言葉遊び
- 30. 「光宙」(ぴかちゅう)はアニメ由来
- 31. 「手紙」は中国ではトイレットペーパー
- 32. 「卅・丗」は数字の30を表す
- 33. 「瓩」は漢字のキログラム
- 34. 「瓱」は漢字のミリグラム
- 35. 「靨」は笑ったときに出るえくぼ
- 36. 鮟鱇形は魚アンコウが語源
- 37. 無花果は花が隠れていたため
- 国字(日本で作られた漢字)に関する雑学
- 画数と漢字の数・書き順に関する雑学
- 漢字と国際文化に関する雑学
- まとめ
漢字の起源・歴史・成り立ちに関する雑学
1. 現用される古代唯一の文字
漢字は、数千年前に中国の黄河文明で誕生した表語文字です。世界四大文明(エジプト・メソポタミア・インダス・中国)の中で、ヒエログリフや楔形文字などは歴史の途中で滅びてしまいましたが、漢字だけは一度も途切れることなく、形を変えながら現代まで使われ続けている唯一の古代文字体系です。古代の人々が亀の甲羅に刻んだ文字が、今の私たちの生活の中で生き続けていると考えると、人類の歴史そのものを背負った非常にロマンあふれる文字だと言えるでしょう。
2. 漢字の総数は10万字超え

漢字は文字数が史上最も多い体系と言われ、歴代の辞書を合わせるとその数はなんと10万字を超えるとも推測されています。もちろん全てが日常で使われるわけではありませんが、この数は圧倒的です。現代では、中国や日本、台湾などを中心に約15億人が漢字を使用しており、これはラテン文字(アルファベット)に次いで世界で2番目に使用者が多い文字体系です。たった26文字程度のアルファベットに対し、数万の文字を操る漢字文化圏の豊かさが分かります。
3. 「白」のルーツは米の穂先か

身近な「白」という漢字ですが、その字源については諸説あり議論が続いています。「白骨化した頭蓋骨」を象ったという少し怖い説もユニークですが、現代の研究では「米や穀物の穂先」を表す象形文字が原形であるとする説が有力です。殻の中に詰まった白く輝く米粒の色から「しろ」という意味が生まれたと考えられています。私たち日本人が主食とする「お米」が、色の基本となる漢字のルーツかもしれないというのは、親近感が湧く面白い話です。
4. 「美」は「大きな羊」が由来

「美しい」という漢字は、よく見ると「羊」と「大」という字から成り立っています。古代中国において、羊は神聖な生き物であり、その中でも「大きく太って立派な羊」は、神様への捧げ物として大変重宝されました。そこから、「(神に捧げるほど)立派な羊」=「優れている」=「美しい」という意味に変化していったとされています。現代の美意識とは少し違いますが、古代の人々の価値観や信仰心が色濃く残っている文字の一つです。
5. 「孤」は子どもの一人ぼっちを表す

「孤独」という熟語に使われる「孤」の字は、「子」と「瓜(うり)」からなる形声文字です。なぜ「瓜」なのかというと、「瓜」が「一つずつ実がなる」様子や、「ゴロゴロ転がっている」様子をイメージさせる音符として使われているからです。つまり、親を失ったりして「子どもがたった一人でぽつんといる様子」を表しています。この悲しげな情景描写から、「孤独」や「孤立」といった、頼るものがいない寂しい意味が生まれました。
6. 「電」は雷を神の力として表現

電気の「電」は、もともとは「雷(稲妻)」そのものを指す漢字でした。上の「雨」は気象を表し、下の「申」は稲妻がピカッと光って屈折しながら走る様子を描いた象形です。古代中国の人々は、雷を単なる自然現象ではなく「神の力」や「天の怒り」として畏れ敬いました。現代では科学的なエネルギーとして扱われる電気ですが、その文字の成り立ちには、自然に対する古代人の畏敬の念と信仰心が込められているのです。
7. 「友」は手と手が合わさって成立

「友達」の「友」という漢字は、実は「手」を意味する「又」という字を二つ組み合わせて作られています。これは、右上から差し出された手と、左下から差し出された手がぴったりと合わさる様子、つまり「握手」や「手を取り合う」姿を表現しています。言葉を交わすだけでなく、手を取り合って助け合う関係こそが「友」であるという、古代からのメッセージが込められた、温かみのある素敵な成り立ちを持つ漢字です。
8. 「光」は火を守る聖職者の姿

明るい「光」という漢字は、一見するとシンプルな形ですが、実は「人」の頭の上に「火」が燃えている様子が元になっています。これは人間が燃えているわけではなく、古代において火を守り神に仕える聖職者(巫女のような存在)が、ひざまずいて頭上に火を掲げている姿を表しています。火が神聖なものであり、それを扱う人が周囲を照らす存在であったことから、「ひかり」や「輝き」を意味する文字となりました。
9. 「幸」は手枷から転じた幸せ

「幸せ」という漢字のルーツは意外なことに、罪人の手を拘束する刑具「手枷(てかせ)」の形です。これだけ聞くと不吉ですが、なぜこれが「幸福」になったのでしょうか。有力な説としては、「手枷をはめられる程度の軽い刑で済んでよかった」という、逆説的な安心感から意味が転じたと言われています。「最悪の事態を免れたこと」こそが幸せの始まりであるという、深い教訓が含まれているのかもしれません。
10. 「笑」の字源は口が開く様子

「笑う」という漢字の成り立ちにはいくつかの説があります。「犬」の字が含まれ、巫女が神を楽しませるために踊る姿とする説もありますが、近年では「竹」の皮が裂けて口をパカッと開いた様子を象り、それに「夭(首をかしげる)」という音符を組み合わせたとする説が主流です。植物が裂けるように口を大きく開けて笑う姿、あるいは体がくねるほど笑う様子など、全身で喜びを表現する姿が浮かんでくる文字です。
11. 「取」は戦の功績を示す耳
何かを「取る」という漢字は、「耳」と「又(手)」の組み合わせでできています。これは少し残酷な歴史に基づいています。古代中国の戦場では、敵を討ち取った証拠として、倒した敵の「左耳」を切り取って持ち帰る習慣がありました。手で耳をつかんで切り取るその動作が、そのまま「(手柄を)取る」という意味になり、現在のような広い意味での「取得する」という言葉として使われるようになったのです。
12. 「爽」の字源は光が交わる様子

「爽やか(さわやか)」という漢字には、大きな「大(人)」の左右に「×」印が4つ書かれています。これには「死体の胸に入墨を入れた形」という呪術的な説もありますが、現代の一般的な解釈としては、光が交差して明るくなる様子を表しているとされます。「×」は窓の格子の隙間から差し込む光の交なりを表現しており、そこから「明るい」「はっきりしている」「気持ちが良い」という意味につながったと考えられています。
13. 「神」のルーツは「雷」にある

漢字の「神」は、「示(しめすへん)」と「申」から成ります。「示」は祭壇を表し、「申」は稲妻の形(雷)を表しています。つまり、古代人にとって最も身近で強大な神の力は「雷」であり、それが神の怒りや啓示そのものだと考えられていたのです。日本語の「かみなり」という言葉も「神鳴り」が語源であることからも、雷と神が同一視されていた古代の信仰心が、文字と言葉の両方に残っていることが分かります。
14. 「雪」は箒で掃くように降る様子

「雪」という漢字は、「雨かんむり」に「彗(ほうき)」の下部分を組み合わせた会意文字です。「彗」は「ほうき」や「はく」という意味を持ちます。つまり、箒(ほうき)でサッサと掃くことができるような、雨とは違う軽いものが空から降ってくる様子を表現しています。古代の人々が、空から静かに降り注ぐ白い雪を、掃除用具の箒に例えた感性が光る漢字です。
15. 「虹」には龍の姿が込められている

空にかかる美しい「虹」に、なぜ「虫へん」が使われているのか不思議に思ったことはありませんか? 古代中国では、虹は空を渡る巨大な「龍」や「大蛇」の一種だと考えられていました。「虫」は蛇や爬虫類の象形であり、「工」は天と地をつなぐ形(または音符)です。雨上がりの空に現れる巨大なアーチを、生きている伝説の生物に見立てた、古代人の豊かな想像力と神話的な世界観が反映されています。
16. 「止」は足跡の形からできた

「止まる」という漢字は、実は地面に残された「足跡」の形(足の裏の形)から生まれました。もともとは「足」そのものを意味していましたが、足がある場所に「とどまる」ことから、「停止する」「止まる」という意味に使われるようになりました。この「止」という字形は、歩くことを意味する「歩」や、走ることを意味する「走」など、足に関する多くの漢字の基本パーツとしても使われています。
17. 「明」は太陽と月で明るさを表す

「明るい」という漢字は、見ての通り「日(太陽)」と「月」を組み合わせた会意文字です。昼の世界を照らす太陽と、夜の世界を照らす月。この二つの強烈な光源を並べることで、この上ない「明るさ」を表現しました。甲骨文字の時代からこの組み合わせは変わっておらず、古代人も現代人も、太陽と月の輝きに「明るさ」の基準を置いていたことがよく分かります。シンプルですが、非常に力強い説得力を持つ漢字です。
難読漢字・当て字・読み方に関する雑学
18. 「幽霊文字」「ウソ漢字」の存在

漢字の世界には、「幽霊文字」と呼ばれる奇妙な文字が存在します。これは、JIS漢字コードを作成する際に、資料の汚れや誤字を誤って新しい漢字として登録してしまったものなど、典拠が不明で、読み方も意味も分からず、使われることもないのに辞書やPCの中にだけ存在する文字です。まさに「幽霊」のように実体のない漢字が、私たちのデジタル機器の中に潜んでいるのです。
19. ヘラクレスの漢字は「赫拉克勒斯」

世界最大のカブトムシとして有名な「ヘラクレスオオカブトムシ」。実は漢字で書くと「赫拉克勒斯大甲虫」という非常に強そうな表記になります。これは中国語表記に基づくもので、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスの音を、漢字の音読みで忠実に写し取った当て字です。「赫(あかい・かがやく)」などの字面がいかにも強そうで、昆虫の王様の名前にふさわしい、迫力満点の漢字表記と言えるでしょう。
20. 豆腐は腐っていないのに「腐」

「豆腐(とうふ)」の「腐」という字を見て、「なぜ腐っていないのに腐という字を使うのか?」と疑問に思う人は多いでしょう。実は、中国語における「腐」は、「腐る」という意味だけでなく、「ぶよぶよした個体」や「液体が凝固したもの」という意味も持っています。豆乳という液体を固めて作った食品であるため、この字が当てられたのです。誤解を避けるため「豆富」と書くこともありますが、本来の意味は「固めた豆」です。
21. 「鳩」は鳴き声「クー」が由来

平和の象徴である「鳩(はと)」という漢字は、「九」に「鳥」と書きます。これは、ハトの鳴き声が「クー(九)クー(九)」と聞こえることに由来する形声文字です。「九」の字音(キュウ・ク)を、そのまま鳥の鳴き声の擬音語として採用したのです。難しい理屈ではなく、「クーと鳴く鳥だから鳩」という、非常にシンプルで分かりやすい発想で作られた漢字の代表例と言えます。
22. 猫や蚊の漢字は鳴き声が由来

動物や虫の漢字には、鳴き声が由来のものが多くあります。「猫」は「苗(ビョウ)」という音が「ミャオ」という鳴き声に近いことから作られました。また、「蚊」は「文(ブン)」という音が、飛ぶ時の「ブーン」という羽音を表しています。古代の人々が、動物たちの特徴的な音を聞き分け、それを漢字の構成要素(音符)として巧みに取り入れた、観察眼の鋭さが感じられる雑学です。
23. 「胡」が付く食材はシルクロード由来

「胡瓜(きゅうり)」「胡麻(ごま)」「胡桃(くるみ)」など、「胡」という字がつく食材はたくさんあります。この「胡」は、古代中国から見て西方や北方の異民族を指す言葉でした。つまり、名前に「胡」がつくものは、シルクロードを通って西域から伝来した輸入品であることを示しています。スーパーに並ぶ野菜の名前から、壮大な東西交流の歴史を感じることができるのです。
24. 「赤の他人」の「赤」は色でない

全く知らない人を指す「赤の他人」。この「赤」は色のレッドを指しているわけではありません。もともと「赤」には「明らかな」「全くの」という意味があり、「赤裸々」や「赤恥」と同じ用法です。「純粋な」「混じりけのない」他人であることを強調するための言葉なのです。仏教用語の「閼伽(あか=水)」から転じて「冷たい水=冷淡な他人」となった説もあります。
25. 「黄色い声」は甲高い音の意味

女性や子供の甲高い歓声を「黄色い声」と言いますが、なぜ黄色なのでしょうか。これには諸説ありますが、江戸時代にお経の音程や声の調子を色で表す習慣があり、高音域が「黄色」で示されていたとする説が有力です。音を視覚的な「色」で表現する、日本語ならではの共感覚的な表現と言えるでしょう。ちなみに低い声は「青い声」とは言いませんが、お経の世界では低音は黒などで表されたようです。
26. 「大坂」が「大阪」になった理由

現在の「大阪」は、明治維新までは「大坂」と書くのが一般的でした。しかし、「坂」の字を分解すると「土」に「反」となり、「土に返る(=死ぬ)」や「武士が謀反(むほん)を起こす」と読めてしまい縁起が悪いとされました。そこで、明治時代に入ってから、縁起の悪さを払拭するために「阪」の字(こざとへん)を使うようになり、現在の「大阪」が定着したという歴史があります。
27. 「寿司」は縁起を担いだ当て字

日本を代表する料理「寿司(すし)」。もともとは酸っぱい味を意味する「酸し(すし)」が語源であり、漢字も「鮨」や「鮓」が使われていました。現在よく見る「寿司」という表記は、江戸時代末期頃に「寿(ことぶき)を司(つかさど)る」という、お祝いの席にふさわしい縁起の良い字を当てたものです。美味しい料理に縁起の良い名前をつけて、さらに特別なものにするという、日本人の粋な心意気が感じられます。
28. 「珈琲」はオランダ語の音写

「珈琲(コーヒー)」という漢字は、オランダ語の「koffie」の発音に漢字を当てたものですが、単なる音合わせではありません。「珈」は女性の髪飾り、「琲」は玉をつなぐ紐を意味し、真っ赤なコーヒーの実が枝になっている様子を、美しい髪飾りに見立てて選ばれた字だと言われています。幕末の蘭学者・宇田川榕菴が考案したとされ、音だけでなく、視覚的な美しさも考慮された名訳です。
29. 夜露死苦や愛羅武勇は言葉遊び

「夜露死苦(よろしく)」や「愛羅武勇(アイラブユー)」といった表記。これらは暴走族文化で生まれた単なる当て字ですが、漢字が持つ「死」や「勇」などの強そうなイメージと、音の響きを巧みに組み合わせた、ある種の言葉遊び(言語遊戯)です。形は違えど、漢字を使って独自のニュアンスを表現しようとする文化は、万葉集の「万葉仮名」の時代から続く、日本人の得意技とも言えます。
30. 「光宙」(ぴかちゅう)はアニメ由来
近年のキラキラネームの代表例として挙げられる「光宙」と書いて「ぴかちゅう」。これは明らかに人気アニメキャラクターに由来しており、「光」がピカッと光る様子、「宙」が宇宙のような広がりを感じさせることから選ばれた当て字です。親が子供の名前に「音の響き」と「漢字の意味」、そして「愛着」を詰め込もうとした現代特有の当て字文化の極致とも言えますが、読み解くには柔軟な発想が必要です。
31. 「手紙」は中国ではトイレットペーパー

日本人が中国旅行で筆談をする際に最も注意すべき言葉の一つが「手紙」です。日本語では想いを伝えるレターのことですが、中国語で「手紙(shǒuzhǐ)」と書くと、なんと「トイレットペーパー」や「ちり紙」を意味してしまいます。中国語でレターのことは「信(xìn)」と言います。同じ漢字を使っているからといって意味が同じとは限らない、日中漢字文化の「落とし穴」として有名なトリビアです。
32. 「卅・丗」は数字の30を表す
カレンダーや古い石碑などでたまに見かける「卅」や「丗」という漢字。これは「みそ」または「さんじゅう」と読み、数字の「30」そのものを表しています。「十」を3つ繋げた形が変形してできた文字です。同様に、「十」を2つ繋げた「廿(にじゅう)」という字もあります。これらは数詞としての漢字であり、知っておくと古い文章や日付を読むときに役立つ知識です。
33. 「瓩」は漢字のキログラム
漢字一文字で単位を表す文字があることをご存知でしょうか。「瓩」は、これ一文字で「キログラム」と読みます。「瓦」がグラムを意味する当て字で、そこに「千(キロ)」を加えて「1000グラム=キログラム」を表しています。明治時代に西洋の単位が入ってきた際、それを漢字文化に取り込もうとして作られた文字です。現在ではあまり使われませんが、新聞などで見かけることもあります。
34. 「瓱」は漢字のミリグラム
キログラムがあるなら、ミリグラムもあります。「瓱」と書いて「ミリグラム」と読みます。これは「瓦(グラム)」に「毛(1000分の1を表す単位)」を組み合わせたものです。このように、メートル法の単位を表すために作られた国字は他にもあり、「糎(センチメートル)」や「粁(キロメートル)」などは、偏(へん)と旁(つくり)の組み合わせで読み解くことができます。
35. 「靨」は笑ったときに出るえくぼ

「靨」という難しい漢字、これは「えくぼ」と読みます。「面(かお)」に「厭(おさえる)」という字を組み合わせたもので、顔の一部が押されたように窪むことからこの字ができました。一般的には「笑窪」と書くことが多いですが、一文字で専用の漢字が存在することに驚きます。「厭」には「愛らしい」という意味も含まれており、えくぼのチャーミングさを表現しているとも言われています。
36. 鮟鱇形は魚アンコウが語源

相撲用語などで、腹が出ていて首が短い体型を「鮟鱇形(あんこがた)」と呼びます。お菓子の「餡子(あんこ)」が詰まっているからだと思われがちですが、実は深海魚の「鮟鱇(アンコウ)」が語源です。アンコウの体型がずんぐりむっくりしていることに由来しています。甘いアンコと魚のアンコウ、音は同じでも由来が全く違う、言葉の勘違いトリビアです。
37. 無花果は花が隠れていたため

秋の味覚「いちじく」は漢字で「無花果」と書きます。文字通り読めば「花が無い果実」となりますが、実際に花が咲かないわけではありません。イチジクの花は実(花嚢)の内側に無数に咲いており、外からは見えない構造になっています。昔の人は花を見ずに実がなる様子を見て不思議に思い、「花が無いのに実がなる」という意味でこの漢字を当てました。観察の結果がそのまま名前になった例です。
国字(日本で作られた漢字)に関する雑学
38. 国字は日本で独自に作られた漢字

漢字は中国から伝来したものですが、日本人が独自に発明した漢字も存在し、これを「国字(こくじ)」または「和製漢字」と呼びます。中国の漢字の作り方を模倣し、日本特有の自然、動植物、文化、道具などを表現するために生み出されました。「中国にはない概念を漢字で書きたい」という、日本人のあくなき執念と工夫が生み出した、日本文化の結晶とも言える文字群です。
39. 国字は日本の文化を表すために誕生

国字が作られた最大の理由は、中国語にはない「大和言葉(和語)」や、日本独自の概念を表記する必要があったからです。例えば、「峠(とうげ)」や「畑(はたけ)」などは、日本の地形や農業文化に深く根ざした言葉であり、既存の中国の漢字ではぴったりくるものがありませんでした。そこで日本人は、山や火、田などのパーツを組み合わせて、自分たちの暮らしに合った新しい文字を創造したのです。
40. 国字の誕生は飛鳥時代
国字の歴史は意外に古く、最初の国字が作られたのは7世紀中頃、天智天皇が在位していた飛鳥時代まで遡ると言われています。最も古い国字の一つとされるのが「鰯(いわし)」です。当時から日本人は、単に外国の文化を受け入れるだけでなく、自分たちの文化に合わせてカスタマイズする能力に長けていたことが分かります。千年以上前から続く「日本流アレンジ」の先駆けと言えるでしょう。
41. 国字の数は1500字以上ある

現在確認されている国字の数は、なんと1500字以上、一説には数千字に上るとも言われています。その多くは、特定の地域でのみ使われる地名や、特殊な動植物の名前などです。しかし、その多くは日常的には使われず、漢和辞典の片隅でひっそりと眠っています。春夏秋冬の自然や地名、動植物などに関係するものが多くあり、日本人の自然観が反映されています。
42. 国字は訓読みしか持たないのが原則
国字は日本で作られた文字なので、当然ながら中国語としての発音(音読み)を持ちません。原則として「訓読み」だけで読まれるのが特徴です。例えば「峠(とうげ)」や「畑(はたけ)」には音読みがありません。もし漢字テストで「この漢字の音読みを答えよ」と言われても、国字であれば「なし」が正解になることが多いのです。ただし、一部例外的に音読みを持つものもあります。
43. 常用漢字の国字はわずか9字

数千もあると言われる国字ですが、私たちが日常的に使う「常用漢字表(2136字)」に含まれているものは、わずか9文字しかありません。「働・畑・込・峠・枠・匂・栃・塀・腺」の9つです。これらはあまりにも生活に浸透しすぎているため、多くの日本人はこれらが日本で作られた漢字だとは意識せずに使っています。特に「働」や「畑」などは、もはや日本語の文章になくてはならない存在となっています。
44. 「働」は音読みを持つ例外的な国字
常用漢字の国字「働」は、「はたらく」という訓読みだけでなく、「労働」のように「ドウ」という音読みを持っています。これは国字としては非常に珍しい例外です。実は、日本で作られた「働」という字が中国に逆輸入された際、中国語で発音が同じ「動」の音(ドウ)が当てられ、それが日本に戻ってきて音読みとして定着したのです。「里帰り」を果たして音読みを獲得した、国際派の国字と言えます。
45. 国字「躾」に表れる日本人の礼儀観

「躾(しつけ)」という字は、「身」を「美」しくすると書きます。これは室町時代に日本で作られた国字で、礼儀作法を身につけることが、人間としての美しさにつながるという日本人の道徳観が見事に表現されています。中国語には「しつけ」に相当する直訳語がなく、この漢字を見せても意味が通じません。日本独自の「型」や「礼儀」を重んじる精神文化が生み出した、傑作といえる漢字です。
46. 魚ヘンが多いのは日本の文化

国字の中で圧倒的に多いのが「魚へん」の漢字です。「鰯(いわし=弱い魚)」「鱈(たら=雪の降る頃に獲れる魚)」「鯱(しゃち=虎のように強い魚)」など、その魚の特徴を見事に捉えて作られています。四方を海に囲まれ、魚食文化が発達した日本ならではの現象です。魚の名前を区別し、それぞれに専用の漢字を与えようとした日本人の、魚に対する並々ならぬ執着と愛情が感じられます。
47. 国字「鱈」は中国へ輸出された

「鱈(たら)」という漢字は、日本で作られた国字ですが、近世になって中国へ輸出され、現在では中国語でも「鱈(シュエ)」として使われています。本来、漢字は中国から日本へ伝わったものですが、近代以降は日本で作られた漢字や熟語が中国へ逆輸出され、現代中国語の語彙を支えています。「鱈」はその象徴的な一例であり、漢字文化圏の相互交流を示す面白い事例です。
48. 国訓(鮎・鮭)は中国で通じない

「鮎(アユ)」や「鮭(サケ)」は、中国にも同じ漢字がありますが、実は意味が全く違います。中国では「鮎」はナマズ、「鮭」はフグの一種を指していました。日本人はそのことを知らず、あるいは無視して、自分たちの身近な魚にこれらの漢字を当ててしまいました(国訓)。もし中国のレストランで「鮎」を注文してナマズが出てきても、それは漢字の意味が違うからであり、間違いではないのです。
49. 国字「俤」の読み方は「おもかげ」
国字の中に「俤」という字があります。これは「おもかげ」と読みます。「人(にんべん)」に「弟」と書きますが、これは「弟は兄に似ている」ということから、「似ている顔立ち=面影」を表すために作られたと言われています(諸説あり)。「面影」と書くのが一般的ですが、一文字でそのニュアンスを伝えようとする遊び心と、兄弟の絆を感じさせるような、情緒あふれる国字の一つです。
画数と漢字の数・書き順に関する雑学
50. 常用漢字最多画数は「鬱」29画
日常生活で使う「常用漢字」の中で、最も画数が多いのは「憂鬱(ゆううつ)」の「鬱」で、29画もあります。かつては「鑑(かがみ)」の23画がトップでしたが、2010年の改定でこの字が追加され、王座が交代しました。複雑で黒々とした字形そのものが、気分が晴れない「うつ」の状態を視覚的に表しているようで、妙に納得してしまう漢字です。
51. JIS漢字最多は「驫」「鸞」の30画
パソコンで変換できるJIS漢字の中で、画数が最も多いのは30画の「驫(ヒョウ)」と「鸞(ラン)」です。「驫」は馬が3頭で「多くの馬が走る音」や「馬が群れる」様子を表し、「鸞」は伝説上の霊鳥を表します。どちらもめったに使うことはありませんが、文字としてのインパクトは絶大で、手書きで書くと真っ黒になってしまいそうな、画数マニアにはたまらない漢字たちです。
52. 「上」の正しい書き順は縦棒から

「上」という漢字、一画目はどこから書いていますか? 「短い横棒」から書いている人が多いかもしれませんが、学校教育で習う標準的な書き順では、一画目は「縦棒」です。1画目に縦棒、2画目に短い横棒、3画目に下の長い横棒と書きます。これは行書などの筆運びに基づいたものですが、意外と大人でも間違えて覚えている人が多い、書き順の引っ掛け問題の代表格です。
53. 「右」と「左」は似ていて書き順が違う

「右」と「左」は形が似ていますが、一画目が違います。「右」の一画目は「左払い(ノ)」から書き、「左」の一画目は「横棒(一)」から書きます。これは、右手が「口」に向かう動き(食事など)と、左手が「工(工具)」を持つ動きという、古代の職能や動作の違いに由来するとも、単に美しく書くための筆順の合理性だとも言われています。
54. 大漢和辞典最多は「龍4つ」の64画
『大漢和辞典』に収録されている中で最も画数が多い漢字は、龍を4つ並べた「𪚥(テツ)」で、驚異の64画です。「言葉が多い」「多言」という意味を持ちますが、現在では実用されることはまずありません。書くだけで日が暮れてしまいそうなこの漢字は、漢字マニアの間で「王様」として知られています。ちなみに龍3つの「龘(トウ)」は48画です。
55. 84画の「たいと」は実在性が疑問視される伝説
インターネット上などで「画数最多」として紹介されることがある「たいと(雲3つ+龍3つ)」という84画の漢字。苗字に使われたという噂がありますが、信頼できる文献には記載がなく、実在性が極めて怪しい「幽霊文字」の親玉のような存在です。都市伝説として語られる、幻の超高画数漢字です。国字として創作された可能性が高いと言われています。
56. 「九」の正しい書き順は左払いから

漢数字の「九」。一画目に横棒を書いていませんか? 学校で習う正しい書き順は、一画目に「ノ(左払い)」を書き、二画目に「乙(横折れ曲がり)」を書きます。この順序で書くことで、字のバランスが整いやすくなります。単純な字ほど、思い込みで間違った書き順のまま覚えていることが多いものです。「力」は逆に横折れから書きます。
57. 「田」の正しい書き順は縦棒が先

「田」という字、三画目に真ん中の「横棒」を書いていませんか? 正解は、三画目に真ん中の「縦棒」を書き、最後に横棒で閉じるのが正しい書き順です。「王」や「里」なども同様に、縦を先に通してから横で閉じるパターンが多いです。正しい順序は、文字の骨格をしっかり作るために考えられています。
58. 書き順が違うのは成り立ちや美しさ
なぜ漢字によって書き順が決まっているのでしょうか。それは、右利きの人が筆で書いたときに、最も筆運びがスムーズで、かつインク(墨)が垂れたり汚れたりしない合理的なルートだからです。また、「右(ノが先)」と「左(一が先)」のように、文字の成り立ち(手の動作)の違いが書き順に反映されている場合もあります。理にかなった動きがルールになっているのです。
59. 正しい筆順は字を美しくする
「書き順なんてどうでもいい」と思うかもしれませんが、正しい筆順には意味があります。正しく書くと、点画のつながり(気脈)が自然になり、バランスの取れた美しい文字が書けるようになります。行書などの崩し字も、正しい筆順がベースになっているため、綺麗な字を書きたいなら筆順を守るのが一番の近道です。
60. 常用漢字は手書き必須ではない
2010年の常用漢字表改定において、「憂鬱」の「鬱」などの複雑な字が追加されましたが、同時に「すべての漢字を手書きできる必要はない」という方針も示されました。情報化社会において、漢字は「書く」能力よりも、変換された文字を正しく「選ぶ・読む」能力の方が重視されるようになった現代の事情を反映しています。読めるけれど書けない字が増えるのは、時代の流れと言えるでしょう。
漢字と国際文化に関する雑学
61. 中国語を繁簡2種併記する日本の特異性
日本の駅や観光地では、中国語案内板に「繁体字(台湾・香港など)」と「簡体字(中国本土)」の2種類が併記されていることがよくあります。実はこれ、世界的に見ても日本特有の「おもてなし」現象です。中華圏の人は文脈でどちらも何となく読めるため、海外ではどちらか一方(多くは簡体字か英語)のみの表記が一般的です。両方書く丁寧さは日本ならではです。
62. 中国語の「走」は「歩く」という意味

中国語で「走(zǒu)」と書いてあっても、それは「走る」ではなく「歩く」という意味です。「ここを走るな」という意味だと思って注意書きを見たら、実は「ここを歩くな(立ち入り禁止)」だった、という勘違いが起こりえます。ちなみに中国語で「走る」は「跑(pǎo)」と書きます。筆談の際には要注意です。
63. 固有名詞を自国音で読む慣習
東アジアの漢字文化圏(日・中・韓・ベトナム)では、古くから人名や地名の漢字を、それぞれの国の読み方(日本なら音読みや訓読み)で発音するのが常識でした。例えば、中国の「毛沢東」を日本人は「もうたくとう」と読み、韓国の「金大中」を「きんだいちゅう」と読むのが、長年の文化的な慣習でした。文字さえ同じなら音は違っても通じる、漢字文化圏の特権でもありました。
64. 韓国の主張「固有名詞現地音主義」

1980年代以降、韓国は「名前はその国の発音で呼ぶべきだ」という「現地音主義」を強く主張し始めました。これは相手国の文化と個人の尊厳を尊重するという考え方に基づいています。この要請を受け、日本のマスメディアも徐々に表記や読み方のルールを変更していくことになりました。漢字の読み方一つにも、国際政治や外交の歴史が関わっているのです。
65. 日本での現地音表記への変化
韓国からの要望を受け、現在日本のニュースなどでは、韓国・北朝鮮の人名や地名を現地音(ハングル読み)で読むのが一般的になりました。「きんだいちゅう」ではなく「キム・デジュン」、「プサン」や「ソウル」と呼ぶのがこれにあたります。漢字という共通項よりも、音の響きを優先するグローバルスタンダードへの移行と言えますが、漢字の「意味」が伝わりにくくなるというデメリットも抱えています。
66. 現地音主義は漢字文化圏からの離脱
固有名詞を現地音で呼ぶという変化は、ある意味で「漢字文化圏」という共通の土台からの離脱を意味します。漢字を見れば意味も音も共有できていた時代から、アルファベット圏のように「音」だけで相手を認識する時代へと変化しました。これはアジアにおける漢字の役割が、共通言語から単なる自国語の表記手段へと変わったことを示唆しています。
67. 孔子や李白は現地音で呼ばれない

現地音主義が浸透した現在でも、歴史上の人物である「孔子(こうし)」「諸葛孔明(しょかつこうめい)」「李白(りはく)」などは、現地音(コンズ、ジューガー・コンミン、リーバイ)ではなく、日本語読みのまま定着しています。過去の偉人まで呼び変えると歴史教育に混乱が生じるため、これらは例外として扱われています。現代人と歴史上の人物で呼び方が変わるのは面白い現象です。
68. 中国語では外国語を正確に表記困難

漢字は表意文字であるため、外国語の音を正確に写し取るのが苦手です。特に中国語には、音節の終わりに「k・t・p・s」などの子音が来ることがほとんどなく、例えば「マクドナルド」を「麦当労(マイダンラオ)」とするように、かなり苦しい当て字にならざるを得ません。漢字の持つ構造的な限界を示す面白い例です。
69. 「胡」は異民族由来の証

「胡」という字は、古代中国が北方の騎馬民族や西域の人々を呼んだ名称です。胡座(あぐら)、胡椒(こしょう)、胡桃(くるみ)。これらはすべて、シルクロードを経由して、異文化との衝突と融合の中で生まれた言葉です。漢字一つに、かつての壮大な東西交流のロマンが刻まれています。普段使う言葉の中に、シルクロードの風が吹いているのです。
70. 漢字は「歴史のタイムカプセル」
私たちが普段何気なく使っている漢字。その一文字一文字には、数千年前の古代人の生活、祈り、恐怖、そして美意識がそのまま「タイムカプセル」のように保存されています。スマホで簡単に変換できる時代だからこそ、たまにはその文字の向こう側にある長い歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。きっと、見慣れた文字が少し違って見えてくるはずです。
まとめ
漢字は単なる記号ではなく、古代人の思考や文化、信仰までも映し出す「歴史の鏡」です。
一文字に込められた意味を知ると、普段の言葉が少し特別に感じられるかもしれません。
次に文字を書くときは、ぜひその由来に思いを馳せてみてください。
きっと、あなたの見る“漢字の世界”が少し変わって見えるはずです。