サイコロを振って進む先には、人気のお店や芝居の楽屋、ときには大奥まで広がっています!江戸時代の「絵双六(えすごろく)」には、当時の人々が楽しんだ遊びや仕事への思い、憧れの暮らしが色鮮やかに描かれているんです。
今回は、江戸後期の作品を中心に、実際の盤面を眺めながら楽しめる面白い豆知識を集めました。盤面の「振り出し」と「上がり」に注目すると見えてくる物語を、ぜひ一緒にのぞいてみましょう!
※盤面の文字や遊び方の説明は、国立国会図書館の公式解説に基づいています。絵双六に描かれた出世や人生は、当時の暮らしをそのまま再現したものではなく、憧れや物語的な演出も含みます。
まず知っておきたい、絵双六の遊び方
ここで扱うのは、紙に描かれたマスの上で駒を動かす「絵双六」というボードゲームです。白と黒の駒を使って盤上で遊ぶ「盤双六」とは別の遊びになります。絵双六には、出た目の数だけ順に進む「廻り双六」と、目に応じた指示で離れたマスへ移る「飛び双六」があり、隣のマスへ進むとは限らないのが面白いところです。
仕事と出世の夢をのぞく
1.長者以外のゴールも

『寿出世双六』には、商家で働いて大金持ちの長者を目指す道だけでなく、学問を極めて儒者や医者になる道も用意されています。さらに「隠居」も上がりの一つと考えられるのがユニークなところです。隠居料を受け取るという指示があり、成功した後の穏やかな暮らしも描かれています。一方で「勘当」などの厳しいマスもあり、出世は順風満帆とは限りません。
見るポイント:職業の名前と、成功・脱落を表すマスを見比べてみましょう。
2.花嫁から師匠になる道

女性のさまざまな人生を描くこの飛び双六では、「花よめ」の次が一つに決まっていません。サイコロの目によって、姑(しゅうとめ)になったり、子どもに読み書きを教える手習いの師匠になったりします。師匠へ進む理由は「芸は身をたすけて」と書かれているのが特徴です。移動先だけでなく理由まで添えられているため、盤面をたどると短い人生物語が生まれます。
見るポイント:人物の姿だけでなく、それぞれに添えられた職業や立場の名前にも注目。
3.大奥は紙の上の憧れ

『奥奉公出世双六』は、江戸城の大奥で奉公し、将軍の側室になることを目指す華やかな飛び双六です。水汲みなどの雑役を務める「御末」や、侍女の筆頭である「老女」など、さまざまな役目が登場します。ただし実際には、町人層から奥仕えに選ばれることは少なかったとされています。現実の就職案内というより、遠い世界への憧れを紙の上で楽しむ作品なのです。
見るポイント:大奥で働く女性たちが、どのような役目で描き分けられているか。
4.寺子屋の居残りマス

この飛び双六は、母親に連れられて寺子屋へ入門するほほえましい場面から始まります。盤面には「褒美」「留められ」「破門」と、勉強の成果やつまずきを表す言葉が並んでいます。「留められ」とは現代でいう居残りのことです。上がりが学問の神様をまつる「亀戸天神」になっているのも、手習いを題材にした作品らしい粋な締めくくりですね。
見るポイント:子どもたちの場面と、「商売往来」など手習いの見本となった本の名前。
お店と芝居も遊びになる
5.商品広告になった双六

『初商出世双六』は、お店の商品を広く宣伝するために作られました。作者の小三馬は、人気戯作者・式亭三馬の息子で、父の店を継いだ人物です。盤面には大ヒット化粧水「江戸の水」や「天人香」など、28種の商品と当時の宣伝表現としての効用が載っています。家族や友人と遊びながら自然と商品を知ってもらう、まるで江戸時代のゲーム付き広告です。
見るポイント:商品名と、その商品を売り込む説明の組み合わせ。
6.江戸の人気店グルメ双六

料理屋、鰻屋、蕎麦屋など、江戸の飲食店を中心にめぐる食いしん坊にはたまらない飛び双六です。当時憧れの的だった有名料理屋の山谷の八百善や深川の平清もしっかり登場します。さらに、普通ならスタート地点に「振り出し」と書くところを、商いにかけて「売出し」としています。おいしいものへの関心も、言葉遊びの楽しさも詰まった一枚です。
見るポイント:「日本橋の朝市」から「山王御祭礼」へ向かう途中に、どんな店や風物があるか。
7.芝居の楽屋裏を見物

歌舞伎の舞台上の名場面ではなく、普段は見られない裏側を描いたのが『俳優楽屋双六』です。楽屋口から始まり、お風呂場である湯場や小道具部屋、女形の部屋など、建物の部屋そのものを双六のマスにしています。上がりでは役者たちが真剣に稽古をしている様子が描かれており、華やかな舞台を支える場所へ入り込むような「楽屋裏見学」を楽しめます。
見るポイント:部屋の名前と、その場所に配された役者たち。
紙の上で、憧れの旅へ
8.富士山を中央に旅する

右下の日本橋を出発し、伊勢神宮に立ち寄って、右上の京都を目指す道中双六です。最大の特徴は、普通のように四角いマスを並べるのではなく、旅先を空から見渡すような鳥瞰図になっていることです。画面の中央には大きく堂々とした霊峰が置かれており、正確な地図とは違う構図ながら、遠い土地を一枚に収めた旅の楽しさが生き生きと伝わってきます。
見るポイント:右下の日本橋、中央の富士山、右上の京都の位置関係。
9.「泊」の印は一回休み

「上野のさくら」や「隅田川の月」など、四季折々の江戸の名所をめぐる風流な双六です。盤面のところどころにある印は旅の宿泊を表しており、ここに止まると次の番を待たなければなりません。さらに上がるときにサイコロの目が余ると後ろへ戻る指示もあり、景色を楽しむだけでは簡単に終われない、廻り双六と飛び双六の面白さを合わせた仕掛けが盛り込まれています。
見るポイント:名所と季節の組み合わせ、そして「泊」の表示。
10.ゴールのない双六

鎌倉の大仏、七里ガ浜、大山などをめぐるこの作品には、なんと「上がり」が存在しません。日本橋を出発して近郊の名所をぐるりと回り、再び出発点の日本橋へ戻ってくるつくりになっているのです。さらに各マスには次の場所までの距離も細かく記されており、ただ勝敗を競うだけでなく、旅の道筋そのものを味わうようなユニークな双六です。
見るポイント:出発した日本橋へ戻る道筋と、マスに添えられた距離。
言葉遊びと怪談を楽しむ
11.槍持ちが金持ちを目指す

お餅の名前だけを集めた双六と思いきや、振り出しは「鑓餅(やりもち)」、上がりが「金餅(かねもち)」と書かれています。このように「もち」という音の物や言葉を集め、すべて「餅」の漢字と絵に置き換えて遊んでいるのです。同じ種類のものを並べる「物尽くし」という形式と、言葉の意味をずらすダジャレの面白さが融合した、江戸っ子らしい遊び心あふれる一枚です。
見るポイント:「餅」の字が、食べ物以外のどんな言葉に使われているか。
12.怪談のゴールは妖猫

『百種怪談妖物双六』は、子どもたちが集まって怪談を語る「百物語」の場面から始まる飛び双六です。四谷怪談のお岩や海坊主、一本足などが次々と登場し、上がりには恐ろしい「古御所の化け猫」が待ち構えています。怖い話を語り合う遊びが妖怪をめぐる双六にもなっており、華やかな名所や出世の夢とはまた違う、江戸の娯楽の一面が見えてきます。
見るポイント:振り出しの子どもたちと、各マスに配された怪異の姿。
まとめ
長者になりたい、腕を磨きたい、人気店や遠い名所へ行ってみたい。江戸の絵双六は楽しい遊び道具でありながら、当時の人々の関心や夢を一枚の紙にギュッとまとめたものでもあります。
もちろん、盤面に描かれた人生が誰にでも実現できたわけではありません。だからこそ、「どこから始まり、どこを目指すのか」をじっくり眺めると、江戸っ子たちの憧れや、作品が用意した豊かな物語を今でも存分に楽しめるのです!
参考資料・画像出典
- 国立国会図書館「本の万華鏡」第12回:紙の上の旅・人・風俗-江戸の双六-/振り出し
- 一マス目:道中・名所を描いた双六(本文8~10の解説・画像)
- 二マス目:人物を描いた双六(本文7の解説・画像)
- 三マス目:風俗を描いた双六(本文1~6・11~12の解説・画像)
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