一枚の紙が、着せ替え人形や立体模型、ときには歌の本にまで変身することをご存じですか?江戸後期から明治にかけて作られた「おもちゃ絵」には、見て楽しく遊んで楽しい工夫がたくさん詰まっています。
今回は、そんなおもちゃ絵と、同じ紙の遊びとして親しまれた絵双六の雑学をご紹介します。絵の中の小物や文字をたどっていくと、昔の台所や子どもの遊び、商売のアイデアまで見えてきてとても面白いですよ。
1.着せ替えは小物まで

紙を切り抜いて遊ぶ着せ替え人形は、実は昔から子どもたちに大人気でした。東京学芸大学附属図書館に所蔵されている『教訓元禄きせかへ』では、元禄時代の女性に三種類の美しい着物を着せ替えて遊ぶことができます。さらに驚きなのが、変えられるのは服だけではないという点です。笠や髪型、頭巾、かんざし、さらには桶まで付いており、現代のおもちゃにも負けない充実したおしゃれセットになっています。
2.紙を折ると別の絵に

線に沿って紙を折りたたむと、まったく違う絵柄が飛び出してくる「折り替わり絵」というユニークなジャンルもありました。この『しん板折かわりゑ五十五』という作品には、神主が将棋の駒に、船乗りがれんげに変化するという不思議な仕掛けが隠されています。人間が日用品や道具へ早変わりするというのは、なんだか意外で面白いですよね。開いた状態の絵を眺めるだけでなく、折った後に何が現れるかを想像するのも楽しい遊び方の一つです。
参考:東京学芸大学附属図書館「おもちゃ絵・絵双六で遊ぼう③」
3.一枚の絵が武者人形に

画面いっぱいにばらばらに描かれた馬の首や足、そして立派な鎧のパーツ。これは決して描きかけの絵ではなく、パーツを切り抜いて立体的に組み立てるペーパークラフトです。歌川芳藤が描いた『餝立武者揃』では、源義経や武蔵坊弁慶といった有名な武将たちの人形を作ることができます。旗や武器などの細かいパーツも用意されており、隅には小さな完成図まで付いているため、紙一枚が精巧な模型キットとして楽しまれていました。
4.凧の絵も切り抜き式

おもちゃ絵の中には、子どもたちが手作りの小さな凧を作る際に使った「凧絵」と呼ばれるものもありました。一枚の紙に複数のデザインが並んでおり、好きな絵柄を選んで自分の手で凧に仕立てるためのものです。凧絵の題材には、物語の名場面や人気の歌舞伎役者、縁起の良い七福神などが好んで選ばれました。ただ完成品を買って眺めるだけでなく、自分で工作して空に揚げる楽しさまでセットになっていたのですね。
参考:東京学芸大学附属図書館「おもちゃ絵・絵双六で遊ぼう④」
5.影絵にはお手本があった

障子や壁に光を当てて、手でキツネやウサギの形を作って遊ぶ影絵。浮世絵師として有名な歌川広重が手掛けたおもちゃ絵には、そんな影絵の仕組みとポージングを解説したガイドブックのような作品があります。手先だけで作るものだけでなく、体全体や身近な小道具を組み合わせる高度な技も描かれており、完成した影の姿と裏側の必死な動きを見比べるのが醍醐味です。「その形をそうやって作るの?」と思わず笑顔になる発見が詰まっています。
参考:ミネアポリス美術館・作品情報、Colossal・影絵の解説
6.歌の絵に歌い方の記号

『新板子供歌尽』は、当時親しまれていた子どもの歌をかわいらしいイラストと一緒に載せたおもちゃ絵です。うさぎが十五夜の満月を見て跳ねる有名な童謡などがいくつも収められています。ここで特に注目したいのが、歌詞の冒頭に節回しを示す「歌唱符号」が記されていることです。ただ絵と文字を目で追って読むだけでなく、実際に声に出してリズムよく歌うことまで意識して作られた、江戸時代の楽譜のような一枚だったのです。
7.台所道具がずらり

タイトルにある「かつて」とは「お勝手」、つまり今でいうキッチンのことです。歌川芳虎が描いた『新板かつて道具尽』には、江戸の暮らしを支えた調理器具や食器類が図鑑のようにぎっしりと並んでいます。絵の下の段には、立派なかまどや流し、茶だんすまで描かれています。これは一軒の家の間取りをそのまま写したものではなく、生活道具を一覧として集めたものです。現代のキッチンにも残っている道具や、すっかり姿を変えたものを探してみると楽しいですよ。
参考:NDLイメージバンク「おもちゃ絵」、クリナップ「江戸散策」・道具の解説
8.勉強の双六に居残りも

昔ながらの絵双六の中には、寺子屋での日々の学びをテーマにしたユニークな作品も存在します。歌川広重の『春興手習出精双六』は、寺子屋へ入門する「弟子入りいろは」からスタートし、学問の神様として知られる亀戸天神のゴールを目指します。途中のマス目には、優秀な生徒への褒美だけでなく「破門」などの厳しい罰までリアルに登場します。楽しいボードゲームの中にも、当時の学びの喜びと規律の厳しさがしっかりと描かれていました。
9.双六が商品の広告に

家族や友人と双六で遊んでいるうちに、自然とお店の商品名を覚えてしまう――そんな現代のマーケティング顔負けのアイデアが江戸時代にもありました。『初商出世双六』は、自店の品物を広くPRするために作られた双六です。作者の式亭小三馬は、父親から受け継いだお店の28種類もの取扱商品と、それぞれの詳しい効能をマス目の中で紹介しました。楽しい紙のゲームがそのまま通販カタログの役割も果たす、まさに一石二鳥の商売繁盛アイテムですね。
10.武士の支度はふんどしから

戦場へと向かう勇ましい武士の出陣をテーマにした『甲冑着用備双六』。ところが、記念すべきスタート地点のマスに描かれているのは、立派な兜でも鋭い日本刀でもなく、なんと下着である一枚の「褌(ふんどし)」なのです。そこから順番に着物を重ね、鎧や武器を身につけていき、最終的には戦に勝って凱旋する「勝軍帰陣」のゴールへと進みます。立派な武将の姿が出来上がるまでの裏側の支度が、そのまま一つのゲームになっているのが面白いですね。
11.餅のゴールは金持ち

お餅をテーマにした双六なら、最後のあがりは一番おいしいお餅かな?と思いきや、この『新版餅尽愛度双六』のゴールは裕福な人を意味する「金餅」となっています。スタート地点の「鑓餅(やりもち)」も、大名行列の槍持ちをお餅になぞらえたユニークな造語です。このように「もち」という音が付く言葉をたくさん集めてユーモラスな絵にした作品で、江戸っ子らしいダジャレや言葉遊びのセンスが光っています。
12.怪談だってゲームになる

一寿斎芳員が描いた『百種怪談妖物双六』は、子どもたちが集まって怖い話を披露し合う「百物語」の場面からゲームがスタートします。サイコロを振って進む道中には、四谷怪談のお岩さんや海坊主、一本足といった有名な幽霊や妖怪たちが次々と登場します。そして最後のゴールで待ち構えているのは、迫力満点の化け猫である「古御所の妖猫」です。怖いものを避けて逃げるのではなく、あえて妖怪だらけの世界を突き進んでいくドキドキ感がたまりません。
まとめ
着せ替えたり、折ったり、組み立てたり、さいころを振ったりと、江戸から明治にかけてのおもちゃ絵や絵双六には、たった一枚の紙を何通りにも遊び尽くすアイデアが詰まっていました。
台所道具の形や童謡の歌詞、さらにはお店の宣伝まで、当時の人々のリアルな暮らしぶりが遊びの中に生き生きと息づいています。気になる絵柄があったらぜひじっくり眺めて、現代の暮らしと同じところや違うところを探して楽しんでみてくださいね。
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