金魚を眺めるとき、皆さんはどこから見るでしょうか。現代では水槽の横から泳ぐ姿を見るのも楽しいですが、江戸時代には鉢をのぞき込んで上から楽しむ見方や、小さなガラスの器をつるして涼を感じる「金魚玉」という風流な楽しみ方がありました。
当時の浮世絵や飼育書を開くと、金魚を売り歩く人や美しい尾の描き分け、さらには人間のように商売をするユニークな金魚まで登場します。今回は、江戸時代の絵と本に残された歴史をたどりながら、ちょっと面白い金魚の雑学を一緒に楽しみましょう。
1.金魚は上から眺める

江戸時代の金魚鑑賞には、水面をのぞき込む「上見(うわみ)」という鑑賞スタイルがありました。当時の陶器の鉢では横から中を見通せないため、真上から泳ぐ姿を楽しんでいたのです。文久3年(1863)に描かれた錦絵「金魚好」でも、鉢の金魚に優しく目を向ける女性の姿が描かれています。一方で、小さな丸いガラス容器「金魚玉」を軒先につるして涼を取る方法もあり、器によって楽しみ方も変わりました。
画像:出典・国立国会図書館デジタルコレクション、三代歌川豊国「二十四好今様美人 金魚好」(1863年、著作権保護期間満了)。参考:国立国会図書館「金魚の伝来とブーム」
2.金魚を担いで売り歩く

かつて江戸の町には、天秤棒で桶を担ぐ行商人の姿がありました。金魚はもともと高価な観賞魚でしたが、江戸中期頃に養殖が盛んになると価格が下がり、庶民の間にも広く定着していきます。町に響く金魚売りの声は、夏の訪れを知らせる季節の風物詩でもありました。当時の風俗を記した『守貞謾稿(もりさだまんこう)』にもその挿絵が残されており、売り手が町を巡ってくる当時の買い物風景が伝わってきます。
画像:出典・国立国会図書館デジタルコレクション、喜田川守貞「守貞謾稿」巻6・24コマ(著作権保護期間満了)。参考:国立国会図書館「金魚の伝来とブーム」
3.尾っぽにも図鑑がある

金魚の魅力は、鮮やかな赤い色だけではありません。寛延元年(1748)に刊行された『金魚養玩草(きんぎょそだてぐさ)』では、ヒレの広がり方や形の違いを解説しています。見開きのページには少しずつ形の異なる尾が丁寧に描き分けられ、それぞれに名前と説明が添えられています。ただ泳ぐ姿を眺めるだけでなく、細かな特徴を見分けるためのマニアックな知識も、当時すでに一冊の本にまとめられていたのです。
画像:出典・国立国会図書館デジタルコレクション、安達喜之著・奚疑齋増補「金魚養玩草」8コマ(1748年、著作権保護期間満了)。参考:印刷博物館「金魚養玩草」解説
4.金魚がシャボン玉売り

江戸時代の浮世絵には、鉢の中を泳ぐ姿だけでなく、人間のように商売をするユーモラスな姿まで登場します。人気絵師・歌川国芳の「金魚づくし」は、夏の風俗を水中の生き物に置き換えて描いたユニークなシリーズです。その中の「玉や玉や」では、当時の売り声で知られたシャボン玉売りを金魚が演じています。身近な生き物と町の暮らしを結び付けた、江戸っ子の粋な遊び心が感じられる一枚ですね。
画像・参考:出典・ColBase、東京国立博物館蔵、歌川国芳「金魚づくし・玉や玉や」(江戸時代・19世紀)。画像はCC BY 4.0に従って利用。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。
5.病気の世話も本で学ぶ

金魚を家に迎えたら、次に大切なのは毎日の世話です。江戸時代の『金魚養玩草』は、姿の見分け方だけでなく、水替えの方法や病気の治し方まで網羅した実用書でした。オスメスの見分け方や繁殖のコツについても詳しく記されており、好評を得てたびたび版を重ねています。「きれいだから眺める」という段階から一歩進んで「どうすれば元気に育てられるか」を本で学ぶ姿勢には、現代にも通じる親しみを感じますね。
画像:出典・国立国会図書館デジタルコレクション、安達喜之著・奚疑齋増補「金魚養玩草」3コマ(1748年、著作権保護期間満了)。参考:印刷博物館「金魚養玩草」解説、国立国会図書館「金魚養玩草」解題・抄録
まとめ
江戸時代の金魚の楽しみ方は、ただ泳ぐ姿を眺めるだけではありませんでした。陶器の鉢を真上からのぞき込んだり、小さな金魚玉に涼を感じたり、尾の形を細かく見分けたりと、器や視点を変えることで生まれる多彩な魅力を暮らしの中で存分に味わっていたのです。
町には金魚を届ける売り手が巡り、絵師は魚に人間の仕事を演じさせ、飼育書は大切な世話の知識を伝えました。次に金魚を見る機会があったら、ぜひ上から眺めたときの尾の広がりや優雅な動きにも注目してみてください。浮世絵や古い本の物語を思い出すと、見慣れた金魚にもきっと新しい発見が見つかるはずです。
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