秋空をスイスイと気持ちよさそうに飛び回るトンボは、日本人にとって昔からとても馴染み深い生き物ですよね。子どもの頃に虫取り網を持って追いかけたり、指先をくるくると回して捕まえようとしたりした楽しい思い出がある方も多いのではないでしょうか。そんな身近な存在であるトンボですが、実は恐竜が誕生するよりもはるか昔から地球に生き続けている驚異のハンターだということをご存じですか?
普段は何気なく見かけているトンボにも、最新の科学が思わずお手上げになるような飛行能力や、戦国武将たちに愛された歴史など、知れば知るほど誰かに話したくなる秘密がたくさん隠されています。今回は、子どもから大人まで楽しめるトンボの面白い生態や豆知識を30個厳選してご紹介します。明日からの散歩や自然観察がもっと楽しくなる雑学ばかりですので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
1.1万個以上の小さな目

トンボの頭部の大部分を占める大きな目は「複眼」と呼ばれ、六角形の小さなレンズ(個眼)がぎっしりと集まってできています。大型のオニヤンマなどでは、なんと片目だけで約2万個から3万個もの小さな目が集まっているというから驚きですよね。さらに複眼とは別に、おでこのあたりには光の明るさを感じ取る3つの「単眼」も備わっており、周囲の景色や獲物の動きをほぼ360度見渡すことができます。
2.狩りの成功率は95%

ライオンなどの百獣の王であっても狩りの成功率は20〜30%程度といわれていますが、トンボは自然界でトップクラスの凄腕ハンターです。空中でハエや蚊などの獲物を狙った場合、なんと約95%という驚異的な確率で捕獲に成功することが研究で分かっています。逃げる獲物の飛ぶ方向やスピードを瞬時に計算し、先回りして待ち伏せするように捕まえる高度な頭脳と運動神経を持っています。
3.足は歩くためではない

トンボには6本の足がありますが、カブトムシやバッタのように地面をトコトコと歩くことはほとんどできません。トンボの足は歩くためではなく、空中で獲物を捕まえるための「捕獲用のカゴ」や木の枝に止まるためのフックとして進化しているからです。よく観察すると足にはトゲがたくさん生えていて、飛びながら6本の足を前に組んで網のような形を作り、獲物をガッチリと包み込んで捕らえます。
4.空中で獲物を食べる

捕まえた獲物をわざわざ地面や枝に降りてゆっくり食べるのではなく、トンボは飛びながらそのまま食事を済ませてしまいます。足で作ったカゴの中に獲物を閉じ込めたまま、鋭い大あごを使って空中でバリバリと噛み砕いて飲み込むことができるのです。周囲の敵に襲われるリスクを減らし、次々と効率よくエネルギーを補給するための、空中ハンターならではの合理的な食事スタイルといえます。
5.4枚の羽は別々に動く

多くの昆虫は前と後ろの羽を連動させて羽ばたきますが、トンボは4枚の羽をそれぞれ独立した筋肉で別々に動かすことができます。そのため、空中でピタッと静止するホバリングや急上昇、さらには空中で後ろ向きに下がる「バック飛行」まで自在にこなせるのです。最高時速は50〜70キロメートルに達する種類もおり、ヘリコプターやドローンのお手本にもなるほどの完璧な飛行テクニックを持っています。
6.羽の先端の黒い模様

トンボの透き通った羽の先端をよく見ると、長方形の黒や茶色の斑点のような模様がついていることに気づくはずです。これは「縁紋(えんもん)」と呼ばれる器官で、単なる模様ではなく高速で飛ぶときに羽が風圧でブルブルと振動して壊れるのを防ぐ「重り」の役割を果たしています。航空機の翼の先端におもりをつけて振動を抑える技術と同じ仕組みを、トンボは何億年も前から自然に身につけていたのです。
7.指を回しても目は回らない

子どもの頃、「トンボの目の前で指をぐるぐる回すと目が回って捕まえられる」と教わって試したことがある方も多いのではないでしょうか。しかし結論から言うと、トンボは指を回しても目が回ることは一切ありません。ではなぜ捕まえやすくなるのかというと、動く指先を「エサかな?敵かな?」と注視している隙に、人間のもう片方の手が後ろから近づいていることに気づきにくくなるためです。
8.太古のトンボは70センチ

トンボの祖先は約3億年前の古生代石炭紀にはすでに地球上を飛び回っており、これは恐竜が登場するよりもはるか昔のことです。当時の地球は現在よりも酸素濃度が高かったため昆虫が巨大化しており、「メガネウラ」という古代のトンボは羽を広げると約70センチメートルというタカやカラス並みの大きさがありました。もし現代の空をこんな巨大トンボが飛んでいたら、少しびっくりしてしまいますよね。
9.幼虫時代の方がずっと長い

大空を飛ぶ成虫のイメージが強いトンボですが、実は一生の大部分を水の中で幼虫(ヤゴ)として過ごしています。成虫になってからの寿命は1〜2ヶ月程度ですが、ヤゴの期間は種類によって数ヶ月から数年、長いものではオニヤンマのように水中で3年から5年ほどかけて成長するものもいます。何度も脱皮を繰り返しながら水中でじっくり力を蓄え、最後の数週間だけ空へ羽ばたくドラマチックな一生なのです。
10.ヤゴの顎は飛び出す

水中で暮らす幼虫のヤゴも、成虫に負けないくらい獰猛な肉食ハンターとしてメダカやオタマジャクシなどを狙っています。ヤゴの下あごは普段は顔の下に折りたたまれているのですが、獲物が近づくと下あごがマジックハンドのように一瞬でビヨーンと前に飛び出して捕らえる仕組みになっています。この特殊な下あごは、顔を覆い隠すように畳まれていることから「仮面(マスク)」とも呼ばれています。
11.ヤゴはお尻で呼吸する

水の中で暮らすヤゴには魚のようなエラが見当たりませんが、実はお腹の先端(お尻の穴)の内部に「直腸鰓(ちょくちょうさい)」という呼吸器官を持っています。お尻から水を吸ったり吐いたりして酸素を取り込んでおり、さらに敵から逃げるときにはお尻から水を勢いよく噴射してジェット推進のように素早く泳ぐこともできます。呼吸と移動のブースターを兼ね備えた、とてもユニークな体の構造ですよね。
12.「赤とんぼ」という種はない

童謡などでも親しまれている「赤とんぼ」ですが、実は図鑑を調べても「アカトンボ」という正式名称のトンボは存在しません。赤とんぼというのは、成熟すると体が赤くなる「アカネ属」などのトンボをまとめた総称として使われている言葉なのです。私たちが普段見かける赤とんぼの代表格は「アキアカネ」や「ナツアカネ」という種類で、日本には20種類以上の赤いトンボが暮らしています。
13.赤くなるのはオスだけ

秋になると真っ赤に色づくアキアカネですが、羽化したばかりの頃はオスもメスも黄色っぽい地味な体色をしています。その後、山から平地へ降りてくる秋口になると、オスだけが縄張りや自分の存在をアピールするために全身が鮮やかな赤色に変化します。この色の変化は、人間のお肌の大敵ともいわれる活性酸素を打ち消す「抗酸化物質」が体内で増えることで起きる現象だと解明されています。
14.赤とんぼは夏に避暑へ行く

「赤とんぼは秋に生まれる虫」と思われがちですが、実はアキアカネの多くは初夏の6月頃にはすでに田んぼなどで羽化しています。暑さに弱いアキアカネは、気温が30度を超える真夏になると涼しい標高の高い山の上まで何十キロも移動して夏の間を過ごす「避暑」を行うのです。そして秋になって平地が涼しくなると、産卵のために再び山から一斉に降りてくるため、秋に突然増えたように見えるというわけです。
15.逆立ちして暑さをしのぐ

日差しの強い日に水辺の杭や枝先を見ると、トンボがお尻を空に向けてピーンと逆立ちするような不思議なポーズをとっていることがあります。これは「オベリスク姿勢」と呼ばれる行動で、太陽に向かってお尻を突き出すことで日光が体に当たる面積を最小限に減らし、体温の上昇を防いでいるのです。変な格好で遊んでいるわけではなく、厳しい暑さを乗り切るための切実なクールダウンの知恵なのですね。
16.交尾の形がハートマーク

水辺で2匹のトンボが繋がって飛んでいる姿を見かけることがありますが、よく見るとその形がきれいな「ハート型」になっていることがあります。これはオスの尾の先端でメスの首の後ろを掴み、メスがお腹をくるっと前に曲げてオスの胸元にある交尾器と結合するためにできる神秘的なシルエットです。幸せの象徴のようなハートマークを作る生き物として、自然写真家の間でも非常に人気のあるシャッターチャンスとなっています。
17.車の屋根に卵を産む理由

駐車場に止めてあるピカピカの車のボンネットや屋根に向かって、トンボが何度もお尻をチョンチョンと打ちつけている光景を見たことはありませんか?これはトンボが池や水たまりの水面だと勘違いして産卵している行動で、車体が反射する光のキラキラ感(偏光)が水面の反射とそっくりなために起こります。特に黒や紺色などの濃い色の車は水面に見えやすいため、トンボが間違えて集まってきやすいのです。
18.戦国武将に愛された勝虫

トンボは素早く飛び回り、決して後ろへ退かず前に向かって突き進む姿から、戦国時代には「不転退(退かない)」の象徴として「勝虫(かつむし)」という縁起の良い別名で武士たちに深く愛されました。実際はバック飛行もできるのですが、当時の人々にとっては勇猛果敢に前進し続ける姿が非常に頼もしく映ったのでしょう。兜の前立てや鎧、刀の鍔(つば)などの武具にも、必勝祈願としてトンボのモチーフが数多くあしらわれました。
19.日本の古い別名は秋津洲

日本の歴史書である『古事記』や『日本書紀』には、かつて日本という国が「秋津洲(あきつしま)」と呼ばれていたという記録が残っています。「あきつ」とは古語でトンボのことで、初代天皇とされる神武天皇が山の上から国土を眺めた際、日本の地形がまるでトンボが交尾して輪になっている姿(あきつの臀呫)のように見えたことが由来とされています。国の名前になるほど、古代からトンボは特別な存在だったのですね。
20.西洋では不吉な悪魔の使い

日本では縁起の良い「勝虫」として親しまれているトンボですが、実はヨーロッパなどの西洋文化圏では古くから少し怖いイメージを持たれていました。英語でトンボは「Dragonfly(ドラゴンフライ=竜のハエ)」と呼ばれ、地域によっては「悪魔のかがり針(Devil's darning needle)」という不気味な俗称で呼ばれることもあります。かつては「寝ている子どもの目を縫ってしまう」といった迷信もあり、国によってこれほど印象が違うのは面白いですよね。
21.海を渡る旅するトンボ

お盆の時期によく見かける「ウスバキトンボ」という種類は、実は驚くべき長距離トラベラーであることをご存じでしょうか。寒さに弱く日本の冬を越せないこのトンボは、春に東南アジアや中国南部などの暖かい地域から風に乗って海を渡り、世代交代を繰り返しながら何千キロもの距離を北上して日本列島へやってくるのです。小さな体で広い海を越えてくる生命力には、思わずロマンを感じてしまいますね。
22.冬を成虫で越すトンボ

ほとんどのトンボは卵や幼虫(ヤゴ)の状態で冬を越しますが、日本には3種類だけ「成虫のまま」寒い冬を乗り切る珍しいトンボがいます。その代表が「オツネントンボ(越年蜻蛉)」で、雪が降るような真冬でも枯れ草や木の皮にそっくりな茶色い体色でじっと枝に張り付き、春まで飲まず食わずで耐え抜くのです。暖かくなると活動を再開し、体色も鮮やかな水色へと変化させて繁殖に向かいます。
23.日本最大のオニヤンマ

黒と黄色の縞模様がトレードマークの「オニヤンマ」は、日本に生息する約200種類のトンボの中で堂々の最大サイズを誇ります。体の長さは約9〜11センチメートル、羽を広げた幅も11センチメートル以上あり、スズメバチすらも空中で捕まえてバリバリと食べてしまうほどの圧倒的なパワーを持っています。見た目は迫力満点ですが、人間から手を出して掴んだりしない限り、向こうから襲ってくることはありません。
24.世界最小級のハッチョウトンボ

巨大なオニヤンマとは反対に、日本で一番小さく、世界でも最小クラスといわれるのが「ハッチョウトンボ」という種類です。体の長さはわずか2センチメートルほどしかなく、1円玉の直径(2センチ)の中にすっぽりと収まってしまうほどの可愛らしいミニサイズをしています。江戸時代に名古屋の「八丁畷(はっちょうなわて)」という場所で発見されたことが名前の由来で、きれいな湿地帯にだけひっそりと暮らしています。
25.虫除けグッズになる理由

近年、キャンプや釣りなどのアウトドア好きの間で「オニヤンマの精巧な模型」を帽子やリュックにつける虫除けグッズが大ブームになっています。これはオニヤンマが蚊やアブ、ブヨ、ハチなどの天敵であるため、黒と黄色の模様を見た害虫たちが「捕食者がいる!」と本能的に警戒して近づかなくなる性質を利用したものです。殺虫剤を使わないエコな虫除けとして、ゴルフ場や家庭菜園でも活用されています。
26.農薬いらずの田んぼの守り神

トンボが飛び交う田んぼは豊かな自然の象徴ですが、農家の方々にとってもトンボは非常にありがたい「益虫(えきちゅう)」です。成虫のトンボも幼虫のヤゴも、稲の成長を妨げるウンカやヨコバイ、蚊の幼虫(ボウフラ)などの害虫を1日に何十匹も食べて駆除してくれる天然のボディーガードだからです。トンボがたくさん暮らせる環境を守ることは、美味しいお米作りにも直結しているのですね。
27.羽の凸凹が風力発電に応用

トンボの羽を横から顕微鏡などで観察すると、平らではなくトタン屋根のように細かくギザギザと波打つ「凸凹(デコボコ)構造」になっています。この凹凸があることで、羽の周りに小さな空気の渦が生まれ、弱い風でも強い揚力(浮き上がる力)を生み出して少ないエネルギーで飛ぶことができるのです。この驚きの仕組みは「バイオミメティクス(生物模倣技術)」として、微風でも回る風力発電の羽や小型ドローンのプロペラ開発に応用されています。
28.鉛筆のトンボは逆さまだった

文房具でおなじみの「トンボ鉛筆」のロゴマークにはトンボのイラストが描かれていますが、創業から長年にわたり、実は頭が下を向いた「逆さまのトンボ」が使われていました。これは頭を下げた姿が、お客様に対して深くお辞儀をして感謝を伝える「商売の基本姿勢」に見えるとして意図的に採用されたデザインだったのです。現在は国際化に合わせて上向きのロゴに変わりましたが、日本企業らしい粋なエピソードですよね。
29.童謡「赤とんぼ」の歌詞の謎

三木露風が作詞した有名な童謡『赤とんぼ』には、「十五で姐(ねえ)やは嫁に行き、お里のたよりも絶えはてた」という少し切ない歌詞が登場します。この「姐や」とは作者の姉のことではなく、幼い頃に両親が別居して寂しかった露風を実の母のように背負って可愛がってくれた子守奉公の少女のことです。夕焼け空の赤とんぼを見るたびに、連絡が取れなくなった優しい姐やとの思い出を懐かしむ心情が歌われています。
30.トンボは眠るときも枝に止まる

昼間に元気に飛び回っていたトンボたちは、夜になると一体どこで何をしているのか気になったことはありませんか?トンボは昼行性の昆虫なので、日が沈んで暗くなると視力が落ちて飛べなくなるため、草の葉の裏や木の枝先にしっかりと足を引っ掛けて朝までじっと眠るように休んでいます。早朝に水辺の草むらをそっと探してみると、朝露に濡れながら静かに起きるのを待っているトンボの姿に出会えるかもしれませんよ。
まとめ
今回は、身近な昆虫である「トンボ」にまつわる面白い生態や歴史の雑学を30個ご紹介しました。何気なく空を飛んでいるように見えても、狩りの成功率95%を誇るハンターとしての能力や、最新テクノロジーのお手本になる羽の構造など、驚くようなハイスペックぶりがお分かりいただけたのではないでしょうか。
また、戦国武将に愛された「勝虫」としての歴史や、夏に涼しい山へと避暑に出かける赤とんぼの暮らしなど、知れば知るほど親しみが湧いてきますよね。次に公園や散歩道でトンボを見かけたときは、ぜひその大きな目や見事なホバリング飛行に注目して、家族や友人に今回の豆知識をシェアしてみてくださいね!
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