桃から生まれる桃太郎や、灰をまいて花を咲かせるおじいさんなど、誰もが知っているおなじみの昔話も、古い絵本を開くと現代の筋書きとは少し違う意外な顔を見せてくれます。物語の結末や設定だけでなく、表紙の色や紙の加工、本の大きさといった造本にも、当時の読者を楽しませるための工夫がたくさん詰まっていました。
今回は、江戸時代から明治時代にかけて作られた昔話の絵本や木版の版本などを、当時の貴重な挿絵と一緒にご紹介します。手書きの美しい絵巻や小さな豆本にも寄り道しながら、「お話」と「本」の両方から楽しめる昔話の奥深い世界を一緒にのぞいてみましょう。
1.桃を食べて若返る

桃太郎といえば、大きな桃がパカッと割れて中から赤ちゃんが生まれる場面が有名ですが、すべての本がそうとは限りません。江戸後期の絵本『桃太郎宝蔵入』では、川から流れてきた果実を口にした老夫婦が若い頃の姿を取り戻し、その後に夫婦の間で子どもを授かるという展開になっています。成長した桃太郎は寺子屋の勉強でも力比べでも周囲を圧倒し、16歳になると鬼ヶ島へと旅立ちます。歌川広重が挿絵を手がけたこの一冊を読むと、「桃は赤ちゃんの入れ物」というおなじみの常識がガラリと変わりますよね。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/夷福山人作・歌川広重画『桃太郎宝蔵入』。書誌・解説:国立国会図書館デジタルコレクション
2.赤本は本当に赤い

歴史の授業や古典の解説などで耳にする「赤本」という言葉は、大学受験の過去問集のことではありません。江戸時代から明治時代にかけて親しまれた、鮮やかな暖色系の表紙を持つ子ども向けの絵入り読み物を指しています。江戸時代のものは少し黄色みを帯びた「丹色(にいろ)」、明治時代のものは濃い紅色が使われるのが特徴でした。一冊あたり10ページほどの短い作りが多く、漢字をほとんど使わない仮名中心の文章と大きな挿絵で、小さな子どもでも視覚的に物語を楽しめる工夫が施されていたのです。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/坂田善吉編『むかし噺桃太郎』、1879年
3.鬼が天気を作る

昔話に登場する鬼といえば、ヒーローに退治される怖い悪役というイメージが強いですよね。ところが江戸後期の豆本『鬼の四季あそび』では、雲の上で四季折々の気象を操るユニークな姿が描かれています。風は大きな団扇や火吹き竹であおぎ、雨は巨大なじょうろから水をまいて降らせるという、当時の生活道具をそのまま空の仕事道具に見立てた仕組みです。さらに夕立の場面では、雷様が太鼓を打ち鳴らし、その女房である稲妻が鏡を反射させて空を光らせるなど、絵本ならではの豊かな空想が広がっています。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『鬼の四季あそび』
4.恋の相手は菊の精

昔の絵入り物語の中には、人間同士だけでなく、自然界の植物と心を通わせる幻想的なロマンスも残されています。手書きで丁寧に作られた奈良絵本『かさしのひめ』では、花をこよなく愛する姫のもとに屋敷の庭に咲く美しい花の化身が人間の姿で現れて深く結ばれるという物語が描かれています。しかし、その大切な花が宮中へ献上されて植え替えられることになり、別れの時が訪れます。化身は姫のお腹に宿った子どもを形見と思ってほしいと告げて消えてしまうという、美しくも切ない純愛ストーリーです。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『かさしのひめ』。資料解説:国立国会図書館デジタルコレクション
5.布みたいでも和紙

明治時代に作られ、現在でもコレクターの間で高く評価されている「ちりめん本」は、一見すると柔らかい布でできているように見えます。しかし実際には布ではなく、多色刷りで印刷した紙に特殊な技法で細かいシワを寄せ、縮緬(ちりめん)のような立体感と手触りを生み出した工芸本なのです。1885年に長谷川武次郎が刊行した外国語訳の日本昔噺シリーズがその始まりとされ、英語やフランス語などに翻訳されて海外へのお土産として大変な人気を博しました。物語だけでなく、独特の風合いまで楽しめる贅沢な一冊です。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/David Tomson訳『Momotaro』、T. Hasegawa、1886年。参考:リサーチ・ナビ「ちりめん本」
6.欲張り爺も幸せに

「花咲かじいさん」のクライマックスといえば、隣の意地悪なおじいさんが見よう見まねで灰をまき、お殿様の目や口に灰を入れてしまって厳しい罰を受ける場面がおなじみです。しかし1879年刊の『はなさかせぢぢ』では、お殿様の家来に殴られた後、自らの悪行を深く反省して善人に生まれ変わり、最終的には両方の家がそろって繁栄するという温かい結末が描かれています。悪いことをした人をただ懲らしめて終わるのではなく、改心してやり直す姿まで描いている点に、当時の物語ならではの優しさが感じられます。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/坂田善吉編『はなさかせぢぢ』、1879年
7.絵本が嫁入り道具

昔の絵本の中には、ページをめくって物語を読むだけでなく、美しい美術品として所有したり部屋に飾ったりして楽しむための特別な本が存在しました。室町時代から江戸時代にかけて手書きで作られた「奈良絵本」のうち、金箔や鮮やかな絵の具を惜しみなく使った豪華な仕立てのものは、良家の女性が結婚する際の大切な調度品や棚飾りとして重宝されたといわれています。画像の『ふんしやう(文正草子)』のように、身分の低い主人公が富を築いて娘が幸せな結婚をする縁起の良い物語は、お祝いの品としてもぴったりだったのでしょう。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/奈良絵本『ふんしやう』下、江戸前期
8.ぶん福は人の名前

タヌキが茶釜に化けて芸を披露する「ぶんぶく茶釜」ですが、お湯が沸騰する音やタヌキの名前ではなく、登場する人間の名前になっている珍しいバージョンがあります。江戸中期の赤本『ふんふく茶釜』では、室町幕府の将軍・足利義政に仕える茶道坊主の名前としてこの呼び名が使われているのです。物語の筋書きも現代とは異なり、仲間たちと一緒に狢(むじな)を捕まえて汁物にして食べようとしたところ、狢が茶釜に化けて危機を逃れ、火にかけられた熱さに耐えかねて正体を現すというドタバタ劇になっています。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『ふんふく茶釜』、江戸中期
9.かちかち山は仇討

現代の子ども向け絵本では、タヌキが畑を荒らしたりおばあさんに怪我をさせたりする程度に表現が和らげられている「かちかち山」ですが、古い本をひもとくと大人も震え上がるような残酷な展開が記されています。なんと捕まったタヌキがおばあさんの命を奪って「ばばあ汁」に料理し、さらに本人の姿に化けて何も知らないおじいさんに食べさせてしまうのです。後半でウサギが背中に火をつけたり泥舟で沈めたりする容赦ない仕返しは、単なるいじめではなく、無念の死を遂げたおばあさんのための壮絶な復讐劇として描かれていました。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『かちかち山』、宮田伊助、1881年
10.絵本で娘が一人に

大人も楽しんでいた古典の長い物語を、子ども向けの短い絵本へと作り直す際には、大胆な脚色が加えられることがありました。たとえば出世物語として知られる『文正草子』では主人公の文太に二人の美しい娘が登場しますが、1749年刊の赤本『塩売文太物語』では、話を分かりやすく整理するためにヒロインが一人に減らされ、さらに夫婦が簀巻き(すまき)にされて水へ沈められそうになるスリリングな危機まで追加されています。限られたページ数で読者を飽きさせないよう、当時の作り手が工夫を凝らしていた様子がよく分かりますね。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『塩売文太物語』、鱗形屋、1749年
11.兎の出番が残らない

何百年も前の古い絵本を調査していると、長い年月を経るうちにページの一部が失われてしまっているケースに出会うこともあります。江戸前期に作られた小型の赤小本『むぢなのかたきうち』は「かちかち山」の古い形を伝える貴重な資料ですが、表紙には「うさぎのちりく(知略)」と書かれているにもかかわらず、肝心の後半ページが欠落していて悪者がおじいさんをだます場面までしか現存していないのです。残された表紙のタイトルと中身のギャップから、失われた後半の展開を推理するのも古書ならではの面白さといえます。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『むぢなのかたきうち』、江戸前期
12.一寸法師の策略

お椀の舟に箸の櫂で都へ上り、針の刀で勇敢に鬼を退治する一寸法師は、正義感あふれる小さなヒーローとして親しまれています。ところが江戸時代の木版本『御伽草子』に収録された物語を読むと、驚くほど計算高い一面が浮かび上がります。なんと都のお屋敷で暮らすうちに美しい姫に恋をし、お供え物のお菓子(うちまき)を眠っている姫の口元にわざと塗りつけ、「姫が私の食べ物を盗み食いした」と主人に嘘を吹き込んで屋敷から追い出させるのです。鬼退治の勇気だけでなく、知恵と計略を駆使して幸せを掴み取るしたたかな主人公だったのですね。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『御伽草子』第19冊『一寸法師』
13.浦島太郎が鶴になる

玉手箱を開けた浦島太郎が白い煙に包まれ、あっという間に白髪のおじいさんになって途方に暮れるラストは、どこか寂しい余韻を残しますよね。しかし『御伽草子』の『浦嶌太郎』では、おじいさんになった後にそのまま空へ舞い上がって一羽の鶴へと姿を変え、のちに亀の化身であった乙姫と再び巡り合って夫婦の明神(神様)として祀られるというめでたい結末を迎えます。また、古い絵巻物では竜宮城の東西南北に春夏秋冬の庭が広がっている様子も描かれており、長寿の象徴である鶴と亀の縁起譚として楽しまれていました。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/絵巻『[浦島太郎]』、室町末期~江戸初期。結末の参考:同ページ掲載『御伽草子』第21冊『浦嶌太郎』
14.豆本は集める楽しみ

明治時代に出版された「豆本」は、縦12センチ、横8センチほどの手のひらサイズが多く、当時の子どもたちにとって宝物のような存在でした。数冊をセットにした「揃いもの」として販売されることもあり、本文の内容はまったく同じままで、色鮮やかな表紙のデザインだけを着せ替えるように変更して何度も出版された例も見つかっています。お気に入りの絵本を何冊も並べて眺めたり、友達と表紙を見比べたりするコレクションの楽しみは、現代のカードやガチャガチャにも通じるワクワク感があったに違いありません。
画像・参考:出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/「揃いものの豆本」
まとめ
誰もが幼い頃に親しんだ昔話も、古い絵本や絵巻物をひもといてみると、現代の私たちが知っている筋書きとは大きく異なる驚きの展開や結末が隠されています。桃太郎の誕生秘話や花咲かじいさんのその後、一寸法師の意外な計略など、時代や本によって物語が少しずつ姿を変えながら読み継がれてきたことが分かりますね。
また、物語の内容だけでなく、目を引く赤い表紙や布のように加工された和紙、集めて楽しい手のひらサイズの豆本など、本そのものを楽しむための豊かな工夫や遊び心も大きな魅力です。次に昔話の絵本を手に取る機会があれば、ぜひ表紙や挿絵の細部、そして最後の一文までじっくりと読み比べてみてくださいね。
▼合わせて読みたい
-
-
日本史の雑学まとめ49選【役には立たないけれど面白いエピソード&事件】
戦国から幕末・明治、古代まで、偉人や出来事には教科書では知れない意外な裏話がたくさんあります。信長のかき氷好きや秀吉の親 ...
続きを見る
-
-
日本の雑学60選【実は日本人のほとんどが知らない!? 面白すぎる豆知識】
日本には、長い歴史と豊かな文化の積み重ねから生まれた、思わず誰かに話したくなるような魅力的な雑学が数多く存在します。皇室 ...
続きを見る
-
-
面白くて笑える雑学&豆知識102選【宇宙科学から朝礼ネタまで役立つ解説付き】
世の中には「えっ、そんなことある!?」とツッコミたくなるような雑学があふれています。この記事では知れば思わず笑ってしまう ...
続きを見る