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和算・算額の雑学8選~神社の絵馬と面白い問題の歴史や世界~

和算・算額雑学

神社にお参りしたら、絵馬に難しい数学の問題が書いてあった……。江戸時代には、そんな光景がありました。数学の問題を掲げた絵馬は「算額(さんがく)」と呼ばれ、円や三角形を組み合わせた問題を、神社やお寺に奉納したものです。

今回は算額と、それを生み出した日本の数学「和算」の世界をご紹介します。計算が苦手な方でも、カラフルな図形や問題の発想から楽しく味わえますよ。

 

1.絵馬に数学を奉納!


金王八幡宮に1859年に奉納された算額
金王八幡宮の算額。安政6年(1859)奉納。
写真:Momotarou2012/
Wikimedia Commons/
CC BY-SA 3.0。
画像は未加工。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

算額とは、いわば神仏に捧げられた「数学の記念プレート」です。江戸時代には、研究の成果を神社やお寺で広く披露する方法として使われました。選ばれたのは、参拝者の目を引く美しい図形問題です。華やかに彩色された作品も多く、解けるかどうかだけでなく、見た目の美しさにも工夫が凝らされていたのが大きな特徴です。写真は東京・渋谷の金王八幡宮に奉納されたもので、お参りの場所が数学の発表の場にもなっていたのですね。


出典:
国立国会図書館「江戸の数学」第3章、
コラム「算額」、
画像の資料説明

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2.問題だけでなく解き方も


奈良県の耳成山口神社に奉納された算額
耳成山口神社の算額。
写真:Terumasa/
Wikimedia Commons/
CC BY-SA 3.0。
画像は未加工。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

「算額って、参拝客への挑戦状だったの?」と思う方も多いかもしれません。ですが、実は問題だけを書いたものとは限らないのです。たとえば奈良県橿原市の耳成山口神社に伝わる算額には、4種類の幾何学の出題とあわせて、その具体的な解法の手順が丁寧に記されています。出題して終わりではなく、どのように答えを導き出すかも後世に残すことで、自分たちの学びを多くの人に伝える役目も担っていたことがわかります。


出典:
橿原市「耳成山口神社」

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3.円が3つで難問に


互いに接し、同じ直線にも接する3つの円の算額問題を示した現代の図
3つの円の半径の関係を考える図。
江戸時代の実物写真ではなく、現代に作成された説明図です。
作図:Collab(2013年)/
Wikimedia Commons/
CC0 1.0。

和算の世界では、シンプルな丸を3つ並べるだけでも奥深い数学の問題になります。この図の条件は、大小の図形が互いにピタリと接し、さらに同じ1本の直線にも接していることです。そこから、「それぞれの半径にどんな法則や関係があるか」を論理的に考えていきます。道具立てはとてもシンプルなのに、答えはすぐには見えてきません。「ただの丸」に見えるものが、頭をひねるパズルに変わるのが図形問題の面白さですね。


出典:
作図者による問題の説明

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4.仲間で成果をお披露目


算額の問題を集めた社盟算譜の第1冊27コマ目
『社盟算譜』第1冊・27コマ。
白石長忠編、池田貞一校、文政9年(1826)序刊。
出典:
国立国会図書館デジタルコレクション。
著作権保護期間満了。

算額は、個人がひとりで奉納するだけのものではありませんでした。同じ流派で学ぶ塾の仲間たちが、何人かで一緒に名前を連ねて掲げることも多くあったのです。1826年に刊行された『社盟算譜』は、和算家・白石長忠の門下生たちが各地の社寺に掲げた算額の問題を一冊にまとめた記録本です。神社やお寺を訪れる人々に「私たちはこんな問題を考えました」と見てもらう、数学仲間たちの晴れやかな発表会でもあったのですね。


出典:
国立国会図書館「社盟算譜」解説

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5.家紋まで数学の問題に


家紋を題材にした和算書、算法紋尽の22コマ目
『算法紋尽』22コマ。
大我塾主人著、天保3年(1832)成立。
掲載資料は嘉永2年(1849)の写本。
出典:
国立国会図書館デジタルコレクション。
著作権保護期間満了。

あらゆる形をパズルとして楽しむ和算の世界では、なんと日本の伝統的な紋章まで研究の材料になりました。『算法紋尽(さんぽうもんづくし)』という書物には、幾何学的なデザインや、そこに描かれた動植物の模様を応用したユニークな出題が数多く収められています。家を表す伝統的なしるしも、数学の目で見直すと知的なクイズに早変わりします。身近な模様から問題を作り出す、江戸時代の人々の豊かな遊び心が感じられる一冊です。


出典:
国立国会図書館「算法紋尽」解説

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6.江戸にもコンパス作図


算法童子問に収録されたコンパスを用いた作図の説明
『算法童子問』98コマ。村井中漸著、天明4年(1784)刊。
コンパスを用いた作図を扱う箇所。
出典:
国立国会図書館デジタルコレクション。
著作権保護期間満了。

私たちが学校の算数や数学で使う、きれいな円を描くための文房具。実は当時の和算書にも、それを使った図形の描き方が詳しく載っていました。1784年刊行の『算法童子問』では、暮らしに必要な計算だけでなく、道具を使って正確な形を描き出す方法や土地の測量技術も幅広く取り上げています。和算は単に答えの数字を出すだけでなく、形を描いたり実際の大きさを調べたりする実用的な学びでもあったのですね。


出典:
国立国会図書館「算法童子問」解説

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7.お殿様も図形に夢中


有馬頼徸の著作、方円奇巧の第1冊58コマ目
『方円奇巧』第1冊・58コマ。
有馬頼徸著、写本。書写年不詳。
出典:
国立国会図書館デジタルコレクション。
著作権保護期間満了。

江戸時代に和算を熱心に研究した人々のなかには、なんと一国を治める大名もいました。久留米藩主の有馬頼徸(ありまよりゆき)は、優れた和算家を召し抱えるだけでなく、自らも高度な数学の研究に取り組んだ人物です。その著作『方円奇巧』は、円と正多角形に関する計算法をまとめた専門書で、公式だけでなく具体的な数値による答えも紹介しています。大名の趣味として、ここまで本格的な研究をしていたとは驚きですね。


出典:
国立国会図書館「拾璣算法」解説、
「方円奇巧」解説

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8.虫食い算も楽しんだ


五明算法後集に収録された虫食い算の問題
『五明算法』後集・第1冊、31コマ。
家崎善之著、文政9年(1826)刊。
虫食い算を扱う箇所。
出典:
国立国会図書館デジタルコレクション。
著作権保護期間満了。

江戸の数学好きが夢中になったのは、円や三角形ばかりではありません。計算式の一部をあえて隠して、空白に入る数字を推理するパズルも親しまれていました。1826年刊行の『五明算法』後集には、隠された数字を当てる問題や立体図形の難問が収録されており、上巻が問題編、下巻が解答編という構成になっています。同じ著者の前集は扇や団扇を使った出題で知られ、「どんな題材なら面白いか」という工夫も大切にされていました。


出典:
国立国会図書館「五明算法 後集」解説

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まとめ

神社にカラフルな問題を掲げたり、身近な家紋をパズルにしたり、仲間と研究の成果を披露したり。江戸時代の和算には、計算の実用性とは別に「数学を見せる・形や発想を楽しむ」という豊かな文化が広がっていました。

もし神社やお寺で算額を見かけても、難しい計算を解けなくて大丈夫です。「どうしてこの形を組み合わせたんだろう?」と眺めてみるだけでも、昔の数学好きたちのワクワクした遊び心にぐっと近づけそうですね。

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