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源氏香の雑学7選~文様の意味や歴史・着物の面白い豆知識~

源氏香雑学

香りを楽しむ遊びと聞くと、好きな香りを選んだり、名前を当てたりするものを想像しませんか。江戸時代から伝わる「源氏香(げんじこう)」は、順番に聞いた香りの違いを考え、その答えを線の図で表す遊びです。そこには『源氏物語』の巻名まで登場します。

今回は、香りの答えになる図形から、豪華な香道具、浮世絵や小さな装飾品まで、画像と一緒に楽しめる歴史や文様の雑学を紹介します。香り、文学、デザインがつながる世界をのぞいてみましょう。資料の年代や、描かれた場面と実際の生活との違いにも触れていきます。

※冒頭の図は現代に制作された説明図です。歴史資料は江戸時代のものを中心に紹介し、江戸・明治のどちらかに年代が限定できない作品は、その旨を記しています。

 

1.答えは物語の巻名

五つの要素の組み合わせを源氏香の図形で表した52通りの説明図

源氏香の答えは、香木の名前ではありません。五回の香りを五本の縦線で表し、同じだと思った香りの線の上部を横線でつなぎます。その組み合わせは全部で52通りあり、それぞれに『源氏物語』の名称が割り当てられているのです。全54帖のうち「桐壺」と「夢浮橋」は除かれます。画像は、その52通りを並べた現代の説明図です。複雑そうな模様も、もとは「何番目と何番目が同じ香りだったか」を書き留める答えなのです。

画像:Wikimedia Commons/Watchduck「Set partitions 5; Genji symbols」(2012年公開の説明図、CC BY 3.0、改変なし)。参考:文化遺産オンライン/鍋島報效会「源氏香図」 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

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2.鼻で香りを「聞く」

香合わせをする角かな屋の四人の花魁を描いた勝川春章の錦絵

香道の世界では、香りを嗅ぐことを心を傾けて味わうという意味で表現します。源氏香では五種類の香木を五包ずつ、計25包用意し、混ぜた中から五包を選んで順番に楽しみます。つまり、五回とも違う香りとは限らず、同じものが続く可能性もあるのです。画像は勝川春章が1776年に描いた、四人の花魁の香合わせです。源氏香の場面とは特定できませんが、江戸の香り遊びを題材にした作品で、香りを覚え比べることが遊びになるのが面白いところです。

画像:メトロポリタン美術館/勝川春章「Four Oiran of the House Called Kadokana-ya Playing the Game of Ko-awase (Incense Game)」(1776年、CC0)。参考:石山寺「源氏香遊び」、文化遺産オンライン「源氏香図」

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3.嫁入り道具にも香遊び

篤姫の婚礼調度に含まれた、葵や牡丹の紋と唐草をあしらった十種香箱と道具一式

香り遊びの道具は、大名家の豪華な品々にも含まれていました。画像の十種香箱は、篤姫が1856年に徳川家定と結婚した際の婚礼調度です。段になった収納箱に、香遊びに必要な道具が収まり、源氏香の折本も付属しています。十種香と源氏香は同じ遊びではありませんが、一式の中に両方の世界がつながっています。葵や牡丹の紋、唐草の装飾も特徴で、香りを楽しむ道具でありながら、婚姻を示す品でもあったのです。

画像・参考:メトロポリタン美術館「梨子地葵牡丹紋散二葉葵唐草蒔絵十種香箱」(作者名記載なし、1856年、CC0)

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4.浮世絵に答えの記号

歌川国貞改め三代豊国の『源氏香の図』の一枚「菷木」

源氏香の文様は、香席の記録だけでなく、絵画の世界にも登場します。歌川国貞、のちの三代豊国が手がけた『源氏香の図』は、1843~1847年ごろに刊行された王朝風の錦絵です。シリーズでは、絵の上部に巻名、和歌、源氏香の図形を組み合わせています。画像は「菷木(ははきぎ)」の一枚で、五つとも違う香りと判断したときの答えも「帚木」です。ただし、絵が描いているのは物語の世界で、江戸の香席の実景ではありません。

画像:国立国会図書館デジタルコレクション/国貞改豊国『源氏香の図』「菷木」(著作権保護期間満了)。参考:国立国会図書館「NDLイメージバンク」/国貞『源氏香の図』、名古屋刀剣博物館「源氏香とお香の歴史」

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5.香の容器にも物語

松や縁側などで『源氏物語』の「初音」を表した江戸時代の香の容器

『源氏物語』と香りのつながりは、答えの記号だけではありません。江戸時代に位置づけられるこの19世紀の器には、松、開けた縁側、二つの「髭籠(ひげこ)」が表されています。題材は「初音」の巻で、光源氏が元日に娘を訪ねる場面です。人物の代わりに、風景や道具で古典の一場面を思い出させる意匠になっています。源氏香専用の品とは確認できませんが、香を扱う道具にも文学の楽しみが込められていたことが伝わります。

画像・参考:メトロポリタン美術館「Incense Container」(作者名記載なし、江戸時代・19世紀、CC0)

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6.新年の挨拶にも香の図

『源氏物語』の注釈書と、源氏香の記号が付いた札を描いたReisaiの摺物

源氏香の文様は、お正月に配る摺物(すりもの)にも登場しました。摺物は、詩歌などを添えた木版画です。作者Reisaiによる18~19世紀の作品には、『源氏物語』の注釈書と、物語の「紅梅」「若紫」を表す札が描かれています。札には場面の絵だけでなく、香り遊びで使う直線の記号も一緒に添えられています。詩にも巻名と江戸の夜明けが登場し、一枚のなかで文学、香り遊び、詩歌を重ねて楽しむ趣向なのです。

画像・参考:メトロポリタン美術館/Reisai「Books and Cards」(18~19世紀、CC0)

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7.小物の模様にもなる

折りたたんだ手紙をかたどり、桐や源氏香の記号をあしらった象牙製の根付

香りの答えを表す記号が、小さな装飾品のデザインにもなりました。画像は、折りたたんだ手紙をかたどった象牙製の根付(ねつけ)です。19世紀の作品で、年代は江戸時代または明治時代とされています。手紙の紙面を思わせる部分には、桐と源氏香の記号が配されています。遊びの符号を、装いを彩る粋な意匠としても楽しんだわけです。源氏香の図は着物や帯、和菓子にも使われ、身近な和の品にも香り遊びの答えが隠れています。

画像:メトロポリタン美術館「Netsuke Carved in Shape of Folded Letter on Paper Decorated with Court Motifs」(作者名記載なし、19世紀・江戸または明治時代、CC0)。参考:名古屋刀剣博物館「源氏香とお香の歴史」

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まとめ

源氏香は、香りを聞き分けるだけでなく、その記憶を線の図にし、『源氏物語』の巻名へとつなぐ雅な遊びでした。五本の線というシンプルな形に、香り、文学、考える楽しさが重なっています。記号の意味を知ると、整った模様にも別の読み方が生まれますね。

豪華な婚礼調度から浮世絵、新年の摺物や小さな根付まで、香りの文化はさまざまな品に表されていました。着物や和菓子などで、縦線と横線を組み合わせた模様に出会ったら、源氏香の図かもしれません。「これは香りの答えにもなるんだよ」と誰かに話せば、何気ない模様を眺める時間がちょっとした歴史の楽しみに変わりますよ。

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