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絵画の犬の雑学10選~有名な江戸・西洋画の意味と面白い豆知識~

絵画の犬雑学

昔の絵をよく見ると、人の足元や道の片隅に、犬がちょこんと描かれていることがあります。わらじで遊ぶ子犬もいれば、台所で働く犬もいて、その姿は実にさまざまです。犬に注目するだけで、古い絵から思いがけない物語が見えてきます。

今回は、調査した資料から、画像・史実・商用利用条件を確認できた10の話をまとめました。かわいい姿を楽しみながら、昔の暮らしや画家の工夫、絵に込められた意味をのぞいてみましょう。江戸や西洋の有名な絵画に隠された伝説や画家の創作も含め、それぞれの背景と一緒に紹介します。

 

1.台所で働く犬

厨房の壁際にある回し車の中で働くターンスピット犬の挿絵

台所の壁際で、犬が大きな回し車を走っています。遊んでいるように見えますが、実は肉を焼く串を回す仕事の真っ最中です。イギリスでは、短い脚の「ターンスピット犬」がこの役目を担いました。車輪の動きが鎖を通して串に伝わり、肉をむらなく焼ける仕組みです。大きな肉を焼く家庭や宿屋などで働いていましたが、やがて機械式の装置が普及し、この犬種も姿を消しました。犬が厨房の動力を担当していたとは、意外な仕事歴ですね。

画像:Henry Wigstead「Turnspit Dog Working」(1799年刊行資料の挿絵)。出典:Wikimedia Commons/パブリックドメイン。参考:National Trust Collections「Wooden dog wheel in the George Inn」

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2.わらじで遊ぶ子犬

大きな牛車の後ろに、わらじをほぐして遊ぶ子犬が描かれた歌川広重の高輪うしまち

大きな牛車に目を奪われますが、その後ろにも注目です。歌川広重が1857年に描いた『高輪うしまち』には、履き物をほぐして噛みつく小さないたずらっ子がいます。ここは荷物を運ぶ牛が多くいた江戸の牛町です。広重は手前の牛車を大胆に大きく描き、奥に広がる景色との距離を感じさせています。そんな名所の風景に、かわいい遊び姿まで添えているのが楽しいところです。雄大な眺めと足元の小さな出来事を、一枚の中で一緒に楽しめます。

画像:歌川広重『名所江戸百景 高輪うしまち』。Brooklyn Museum由来画像、Wikimedia Commons/パブリックドメイン(PD-Art)。参考:文化遺産オンライン・東京国立博物館所蔵の同作品の解説

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3.暦の犬は年の目印

冒頭の犬で戌年を表し、道具や動物の絵を並べた1802年の田山暦

横長の紙に、動物や道具がずらりと並んでいます。なぞなぞのようですが、これは1802年の「田山暦」です。最初に登場する一匹には、「今年は戌年ですよ」と伝える役目があります。田山暦は南部領の田山村で作られ、農具や生活用具などの絵を組み合わせて暦の情報を表していました。文字を読めない人にも伝わるよう工夫され、木製の活字を一つずつ押して作られています。かわいい飾りに見える姿も、暮らしに必要な情報を担っていたのですね。

画像・参考:出典:国立国会図書館「日本の暦・絵暦」、『[盲暦張交帖]』所収・享和2年(1802)田山暦。資料掲載ページ。画像は著作権保護期間満了、出典記載により商用転載可。利用案内

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4.パンを届ける相棒

天使を見上げる聖ロクと、足元でパンをくわえる犬を描いた1518年の絵画

人物の足元を見ると、ちょこんと座る犬が食べ物をくわえています。パオロ・モランドが1518年に描いた西洋画『聖ロク』の一場面です。伝説では、病人を世話していたロク自身もペストにかかり、町を追われて人里離れた場所で暮らしました。そこで貴族の飼い犬が毎日食事を運んで命を救ったとされます。この絵は当時の配達の仕事を記録したものではなく、聖人の伝説を表した作品です。口元にある小さな丸い塊が、人物を支える物語の手がかりになっています。

画像:Paolo Morando『Saint Roch』、National Gallery, London所蔵。Google Arts & Culture由来、Wikimedia Commons/パブリックドメイン(PD-Art)。参考:National Gallery作品解説

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5.本の表紙まで犬柄

犬にまつわるデザインを用いた南総里見八犬伝の表紙資料

犬にまつわる絵は、本を開く前にも楽しめました。江戸時代の曲亭馬琴による『南総里見八犬伝』には、物語にちなんだ装丁が使われています。国立国会図書館に残る馬琴旧蔵の初刷り本では、外装と各帙の最初の冊子の見返しに、それぞれ約20種類の意匠があるそうです。帙(ちつ)は、本をまとめて包む覆いのことです。長い物語の続きを楽しむだけでなく、装丁の違いにも目を向けたくなりますね。掲載画像は、その資料集から選んだ一例です。

画像:『南総里見八犬伝』表紙集(001)。出典・参考:国立国会図書館「国立国会図書館60周年記念貴重書展」、『南総里見八犬伝』(1814~1842年刊)解説。画像は著作権保護期間満了、出典記載により商用転載可。利用案内

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6.後世に悪役へ変身

巣を守って翼を広げる白鳥に、左側から犬が泳いで近づく絵画

白鳥へ泳ぎ寄る犬が、いつの間にか政治的な象徴になってしまいました。ヤン・アセレインが1650年頃に描いた有名な西洋画『威嚇する白鳥』には、そんな後日談があります。もとは白鳥が外敵から巣を守る場面でしたが、約100年後に誰かが文字を書き加え、政治的な意味を持たせました。白鳥は政治家ヨハン・デ・ウィット、迫りくる犬は「国家の敵」と結び付けられたのです。画家が描いた場面と、後世の人が重ねた意味は別のものなのですね。

画像:Jan Asselijn『The Threatened Swan』、Rijksmuseum所蔵。Web Gallery of Art由来、Wikimedia Commons/パブリックドメイン(PD-Art)。参考:Rijksmuseum「Political Swan」

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7.静物画に三匹登場

果物や青い杯とともに、大きな器から飲む三匹の子犬を描いたゴーガンの静物画

果物や食器の向こうに、かわいい子犬たちが並んでいます。ゴーガンが1888年に描いた『三匹の子犬のいる静物』です。面白いのは、犬の体を太い青い輪郭線でくっきりと縁取っているところです。背中の毛の模様も、テーブルクロスの植物模様と響き合っています。手前には果物、斜めに青い杯、その奥には器から飲む子犬たち。テーブルの傾きや物の大きさにも不思議な感じが漂います。写真のような正確さより、色や形の組み合わせを楽しみたくなる作品ですね。

画像:Paul Gauguin『Still Life with Three Puppies』、MoMA所蔵。Google Arts & Culture由来、Wikimedia Commons/パブリックドメイン(PD-Art)。参考:MoMA Learning作品解説

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8.もとは家の壁の絵

広い黄褐色の空間の下方に、上を向く犬の頭が小さく描かれたゴヤの犬

広い空間の下に、犬の頭がぽつんと描かれています。ゴヤの有名な絵画『犬』は、1820~1823年頃に画家自身の自宅の壁面に直接描かれ、後にキャンバスへ移された作品です。「黒い絵」と呼ばれる一群に含まれますが、何が起きている場面なのかは簡単に言い切れません。傷みなどによって、もとの画面にあった要素が失われた可能性も指摘されています。一体何を見上げているのでしょう。当時の姿も想像しながら眺めたくなる、謎の多い一枚です。

画像:Francisco Goya『The Dog』、Museo Nacional del Prado所蔵。Wikimedia Commons/パブリックドメイン(PD-Art)。参考:Fundación Goya en Aragón「Perro semihundido」

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9.自画像に愛犬同席

ホガースの肖像と、その手前に座る愛犬のパグ、トランプを表した1795年の版画

画家の肖像より手前で、パグが堂々と存在感を放っています。ホガースが1745年に制作した作品に登場するのは、「トランプ」という名前で可愛がられていたパグです。画中画として描かれた肖像の外側に犬を置き、画家と並ぶように見せています。このパグは、ホガース自身の気の強い性格をほのめかす意味があるとも解釈されています。掲載したのは原画ではなく、ベンジャミン・スミスが1795年に制作した版画です。自分の姿と一緒に残したい気持ちには、親しみが湧きますね。

画像:Benjamin Smith after William Hogarth、1795年刊。Credit: Wellcome Library, London. Wellcome Images。出典:Wikimedia Commons/CC BY 4.0。参考:National Gallery『The Painter and his Pug』解説 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

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10.廊下の戸に子犬

円山応挙の朝顔狗子図杉戸に描かれた、寄り添う子犬たちの部分写真

ふわふわの子犬たちが描かれているのは、掛け軸ではありません。江戸時代の絵師・円山応挙が1784年に描いた『朝顔狗子図杉戸』は、お寺の建具として実際に使われていた杉の板戸です。もとは愛知県の明眼院にあり、建物は後に東京国立博物館の庭園へ移されました。動物や朝顔が低い位置に描かれ、見る人の立つ地面とつながるような構成になっています。写真は作品の一部分です。歩いていたら足元に可愛い姿がある、そんな出会いを想像すると楽しいですね。

画像:円山応挙『朝顔狗子図杉戸』(部分)、東京国立博物館所蔵。撮影:Kestrel、2018年。出典:Wikimedia Commons/CC0 1.0。参考:ColBase作品解説

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まとめ

昔の絵に描かれた犬を追いかけると、かわいさだけではない面白さが見えてきます。台所で働く姿、年を知らせる印、本の装丁を彩るデザインなど、一匹の犬が、その時代の暮らしや作品の背景を知る入り口になってくれました。

一方で、絵画には伝説や画家の工夫があり、後から意味を書き加えられた作品もあります。次に美術館や図鑑で古い絵を見るときは、人物の足元や道端、画面の隅に隠れた小さな主役たちにも注目してみてください。思いがけない場所で一匹を見つけたら、誰かに「この犬にも面白い話があるんだよ」と教えたくなるかもしれませんね。


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