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鳥山石燕の妖怪の雑学18選~画図百鬼夜行の面白い正体や由来~

鳥山石燕の妖怪雑学

妖怪と聞くと、山奥や暗い夜道に現れる怖いものを想像しませんか。ところが、江戸の絵師・鳥山石燕(とりやませきえん)の妖怪画には、食器や楽器、毎日の暮らしで使う布巾まで登場するのが大きな魅力です。身近な道具が思いがけない姿に変身するところも、石燕の絵ならではの面白さといえます。

今回は、妖怪のユニークな姿だけでなく、名前に隠された言葉遊びや背景にある物語にも注目してご紹介します。頭に載せた道具や障子に並ぶ目、顔のような花など、絵と短い雑学を見比べながら、怖いだけではない江戸の不思議な世界をぜひ楽しんでみてください。

※妖怪の伝承や作品上の設定を紹介する記事であり、実在や目撃を示すものではありません。画像は江戸期の作品の複製画像です。画集の刊行年は『画図百鬼夜行』1776年、『今昔百鬼拾遺』1781年、『百器徒然袋』1784年です。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

 

1.食器が武将に変身

瀬戸物を寄せ集めた甲冑姿の妖怪、瀬戸大将

「瀬戸大将」は、焼き物を寄せ集めた甲冑姿の妖怪です。石燕の解説には、『三国志演義』などで知られる関羽や曹操を指す名前が登場し、燗鍋や陶磁器の模様と絡められています。陶磁器の妖怪に中国の歴史物語を重ねた見立てになっているのですね。瀬戸物と唐津物の争いを描く趣向とも解釈されていますが、実際の合戦や商品の売れ行きを記録したものではありません。武具に見える部分を、普段の器として見直すのが楽しい一枚です。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「瀬戸大将」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「瀬戸大将」解説・参考文献

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2.天狗が大きな鳥

大きな鳥のような姿で描かれた鳥山石燕の天狗

天狗というと、高い鼻や山伏の服装を思い浮かべがちですが、石燕の「天狗」は翼を広げた猛禽類のような姿で描かれています。天狗の外見は、どの時代の絵でもまったく同じというわけではありません。国立国会図書館の解説では、後の絵師・月岡芳年が描いた、より人間に近い姿の天狗も紹介されています。石燕の絵を眺めるときは、顔だけでなく体全体の羽毛や爪にも注目してみてください。よく知っている名前でも、絵師によって印象が変わることがわかります。

画像:鳥山石燕『画図百鬼夜行』「天狗」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

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3.猫の冠は鍋の台

五徳を頭に載せ、火吹き竹を持って囲炉裏に向かう二尾の五徳猫

「五徳猫(ごとくねこ)」の頭にあるのは、囲炉裏でやかんなどを支える道具の五徳です。二本の尾を持つ猫が、火吹き竹を手に火を起こそうとしています。さらに解説には、『徒然草』にある、七徳の舞のうち二徳を忘れて「五徳の冠者」と呼ばれた人物の話が登場します。囲炉裏の道具と古典のあだ名を掛けた言葉遊びになっているのですね。猫のユーモラスな働きぶりだけでなく、なぜ頭の上に道具を載せているのかにも、江戸らしいひとひねりがあります。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「五徳猫」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「五徳猫」解説・参考文献

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4.笑う花は人の顔

人の顔のような花を枝につけた人面樹

枝に並んでいるたくさんの顔は、木から生えた人間ではなく、「人面樹(にんめんじゅ)」という木に咲く花です。石燕の解説では、言葉を話さずにただ笑い、しきりに笑い続けるとそのまま枝から落ちるとされています。中国の書物から伝わった異国の不思議な木の伝承が背景にあるのですね。江戸の百科事典『和漢三才図会』にも、中国の『三才図会』を引いた記述が見られます。日本の怪談だけでなく、書物を通して知られた海外の奇談も石燕の画題になっていました。

画像:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』「人面樹」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「人面樹」解説・原文引用・参考文献

 

5.障子の目と囲碁

荒れた家の障子に無数の目が並ぶ目目連

「目目連(もくもくれん)」は、荒れ果てた家の障子に無数の目が浮かび上がる妖怪です。意外なのは、その由来として盤上遊戯の話題が出てくることでしょう。石燕の解説では、碁打ちの執念が碁盤にこもり、さらに家全体へ現れたものとされています。碁盤の「目」と無数の目玉を重ね合わせた巧みな設定なのですね。格子の中に並ぶ視線を眺めると、身近な建具が急に不気味に見えてきます。勝負への執着を怪異に仕立てた、石燕の創作と考えられている一枚です。

画像:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』「目目連」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「目目連」解説・参考文献

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6.狐火で豊作占い

狐と怪しい光を題材にした鳥山石燕の狐火

闇夜に浮かぶ怪しい光は、狐が灯すものとして恐れられていました。江戸の王子稲荷には、大晦日の夜に関東中の狐が集まって行列を作るという伝承が残っています。さらに地元の村人は、光の数や流れ方を見て翌年の農作物の実りを占ったそうです。不気味な夜の現象が、暮らしを支える収穫への願いとも深く結びついていたのですね。これは王子稲荷周辺の地域伝承であり、全国共通の習慣ではありませんが、当時の人々の暮らしぶりが伝わってきます。

画像:鳥山石燕『画図百鬼夜行』「狐火」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

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7.サザエにも手と目

人のような両腕を持ち、貝の蓋に目がある栄螺鬼

「栄螺鬼(さざえおに)」は、人間のような両腕を持ち、貝の蓋の部分にギョロリとした目がある妖怪です。石燕の解説では、中国の古典『礼記』にある、雀が蛤になり、田鼠が鶉になるという生き物の変化の話が引かれています。鳥や獣が別の生き物に変わるなら巻貝も鬼になるはずというユニークな発想で描かれたと考えられています。実際の生物の進化や生態を説明したものではなく、古典の知識を膨らませたユーモアあふれる作品です。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「栄螺鬼」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「栄螺鬼」解説・参考文献

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8.名器が妖怪の名前に

琵琶を頭に持ち、目を閉じて杖をつく琵琶牧々

着物を着て杖をつく人物の頭をよく見ると、楽器の琵琶そのものになっています。これは「琵琶牧々(びわぼくぼく)」という妖怪です。石燕はその名前を、歴史上の有名な楽器である「牧馬(ぼくば)」に結びつけて解説しています。単に「楽器のお化け」と名づけたわけではないところが粋ですね。解説文に出てくる「玄上」と「牧馬」は、古典の『徒然草』にも登場する実在した名器の名前です。古い物語の知識を知ると、不思議な響きの名前まで一段と味わい深くなります。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「琵琶牧々」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「琵琶牧々」解説・原文引用・参考文献

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9.茶釜より僧侶が狸?

茶釜と狸が組み合わさった姿の茂林寺釜

昔話の「ぶんぶく茶釜」といえば、茶釜から頭や手足が生えた姿を思い浮かべますよね。ところが、国立国会図書館が紹介する茂林寺の伝説では、いくら汲んでも湯が尽きない不思議な釜を愛用していた守鶴(しゅかく)というお坊さん自身が狢(むじな・狸)の化身だったと語られています。石燕の「茂林寺釜」では器と動物が一体化した姿で描かれる一方、後の絵師・芳年の作品ではお坊さんの姿で描かれました。誰が化けているのかを比べるのも面白いポイントです。

画像:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』「茂林寺釜」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

 

10.家の話から天井嘗

長い舌を伸ばして天井をなめる天井嘗

長い舌を伸ばして高いところのシミをなめる「天井嘗(てんじょうなめ)」の解説には、意外にも建築や住まいに関する文章が使われています。石燕が引用したのは、鎌倉時代の随筆『徒然草』にある「天井の高きは冬寒く燈暗し」という一節です。部屋の上部が高すぎると冬は冷え込み明かりも届きにくいという教訓を怪異の説明に転用したのですね。元の随筆にこの妖怪が出てくるわけではありませんが、まじめな住居論から不気味な姿を生み出す遊び心が光ります。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「天井嘗」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「天井嘗」解説・参考文献

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11.清姫の名は後から

蛇の姿になった女性を題材にした鳥山石燕の道成寺鐘

大蛇に姿を変えた女性が、吊り鐘の中に隠れた若い僧を焼き殺してしまう道成寺の悲劇。現在では「安珍・清姫」の物語として有名ですが、実は室町時代の『道成寺縁起』には二人の固有名詞がまだ記されていなかったそうです。当時は単に「僧」と「女性」として描かれ、時代が下って能や歌舞伎などの舞台演目として広まるなかで、現在知られる名前が定着していきました。石燕の「道成寺鐘」は、そうした古典芸能の華やかな世界とも深くつながっています。

画像:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』「道成寺鐘」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

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12.釜の音で願い占い

釜を頭にかぶり、絵馬を手にした毛むくじゃらの鳴釜

頭からすっぽり釜をかぶり、手に絵馬を持った毛むくじゃらの妖怪が「鳴釜(なりかま)」です。このユニークな姿の背景には、湯を沸かした際に出る響きで吉凶を占う伝統的な神事や俗信があると考えられています。岡山県の吉備津神社には、現在も炊き上げた際に出る音の大小や長短で願い事が叶うかを見る伝統神事が伝わっており、1568年の『多聞院日記』にも記録が残っています。台所の調理道具が、神様の声を聞く神秘的な器でもあったことがうかがえますね。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「鳴釜」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「鳴釜」解説・参考文献、吉備津神社「鳴釜神事」

 

13.魔物を映す鏡が妖怪

丸い鏡に舌を出した顔が現れた雲外鏡

「雲外鏡(うんがいきょう)」は、丸い鏡のなかに舌を出した不気味な顔が浮かび上がる妖怪です。石燕の解説には、あらゆる怪物の正体を暴き出すという中国の伝説の宝物「照魔鏡(しょうまきょう)」が登場します。そこに映し出された怪しい影が、そのまま抜け出して妖怪になったのではないか、と夢のなかの出来事として語っているのです。怪異の正体を見破るはずの道具が自ら怪異へと変わってしまうという、逆転の発想がとても面白い一枚です。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「雲外鏡」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「雲外鏡」解説・原文引用・参考文献

 

14.狐が石になっても怖い

玉藻前が石になった伝説を題材にした鳥山石燕の殺生石

お化けの画集に載っているのに、描かれている主役が「岩」という珍しい作品が「殺生石(せっしょうせき)」です。その背景には、絶世の美女・玉藻前(たまものまえ)に化けていた九尾の狐が退治され、那須野の地で巨大な石に姿を変えたという伝説があります。しかも岩に変わった後も強い毒気を放ち続けて近づく鳥や虫の命を奪ったと語り継がれました。実際の毒性を証明する記録ではなく物語上の伝承ですが、動かない自然物にまで怪異の気配を見いだした迫力ある作品です。

画像:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』「殺生石」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:国立国会図書館「鳥山石燕の妖怪図鑑でみる妖怪の世界」

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15.敗れた僧のお経まで

経文を題材にした鳥山石燕の妖怪、経凛々

巻物を身にまとい、鳥のような嘴(くちばし)を持つ「経凛々(きょうりんりん)」は、ありがたいお経が書かれた経文の妖怪です。石燕の解説は、古典『太平記』に記された守敏(しゅびん)と空海(弘法大師)の法力比べの逸話に触れています。争いに敗れた守敏の巻物が、誰にも顧みられなくなって捨てられた末に付喪神(つくもがみ)へと変化したのではないかと想像しているのですね。高僧たちの歴史ロマンを、残された紙の視点から描いたユニークな発想です。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「経凛々」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「経凛々」解説・参考文献

 

16.猫の化け方は三段階?

障子から顔を出す猫、縁側に手をつく猫、二本脚で立つ猫を描いた猫また

石燕の「猫また」の絵には、ポーズの異なる三匹の猫が一枚の画面に描かれています。奥の障子から顔をのぞかせる猫、縁側に前脚をつく猫、そして手拭いをかぶって後ろ脚で立ち上がる猫です。この配置には、普通の飼い猫が長い年月を経て少しずつ妖怪へと変わっていく過程を順番に表したという興味深い解釈があります。江戸時代には、年老いた猫の尾が二股に裂けて化けるという俗信が広く語られていました。一匹ずつのしぐさを見比べるのも楽しいですね。

画像:鳥山石燕『画図百鬼夜行』「猫また」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「猫又」解説・参考文献

 

17.竜の正体は古い布巾

古い布が竜のようにうねる姿の白うねり

空を舞う竜のようにうねる「白うねり(白溶裔)」の正体は、恐ろしい神獣などではありません。石燕の解説には「古きふきんの化けたるもの」と記されており、台所で使い古された布が変化した姿だとわかります。その名前は、『徒然草』に登場する得体の知れない言葉「しろうるり」をもじって名づけられたと考えられています。また、漢字表記の「容裔」には「風に物がなびく様子」という意味があり、見た目の動きと言葉の教養が見事に組み合わされています。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「白うねり」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「白溶裔」解説・原文引用・参考文献

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18.布団にも言葉遊び

古くなった布団を妖怪に見立てた暮露暮露団

「暮露暮露団(ぼろぼろとん)」は、擦り切れた古い寝具が立ち上がったような妖怪です。声に出して読むと破れた寝具そのものに聞こえますが、石燕の解説には、かつて存在した「ぼろぼろ(暮露)」と呼ばれる虚無僧のような修行者の話が登場します。破れかぶれの布という見た目と修行僧の呼び名を掛け合わせたダジャレになっているという説があるのですね。ただ「古い道具が化けた」で終わらせず、古典の知識を重ねてユーモラスに描くところに石燕の粋なセンスが感じられます。

画像:鳥山石燕『百器徒然袋』「暮露暮露団」/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)。参考:「暮露暮露団」解説・参考文献

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まとめ

鳥山石燕の妖怪画は、ただ怖い姿を眺めるだけのものではありません。身近な食器を武将に見立てたり、歴史上の名器を名前に取り入れたり、古典の一節を妖怪の説明に転用したりと、絵と知識が組み合わさった江戸の知的な言葉遊びがたっぷり詰まっています。古くからの伝承を描いた作品もあれば、石燕自身の自由な発想から生まれた創作妖怪もあり、当時の解説と絵を見比べることで一体ずつの個性がいっそう鮮やかに浮かび上がってきます。

次に台所で布巾を使ったり、夜に温かい布団へ入ったりするとき、「これも石燕の妖怪画に出てきたな」と思い出すと、いつもの景色が少し違って見えるかもしれません。何気ない日常のすぐそばにも楽しい想像力の世界が広がっていることを、ぜひ周りの人にもちょっとした豆知識としてシェアしてみてくださいね。

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