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寺子屋の雑学12選~江戸時代の学校・教科書の面白い豆知識~

寺子屋雑学

昔の子どもたちは、寺子屋でどんな勉強をしていたのでしょうか。筆で文字を書くのはもちろん、人の名前を覚えたり、手紙の書き方を習ったり。当時の教科書には、絵や歌を使って子どもの興味を引く工夫もたくさん詰まっていました。今回は、寺子屋の授業風景や実際の古い教科書とともに、昔の学びのちょっと意外な一面をのぞいてみましょう。

江戸時代の庶民の学びを支えた寺子屋ですが、その教え方や使われていた教材は、地域や時代、そして師匠によっても実にさまざまでした。厳格で静かなイメージがあるかもしれませんが、当時の資料をひもといてみると、現代の学校や塾にも通じるユニークな工夫や子どもたちの元気な姿が見えてきますよ。

 

1.教室はけっこうにぎやか

一寸子花里「文学ばんだいの宝」。寺子屋の授業風景を描いた二枚続きの錦絵
一寸子花里『文学ばんだいの宝』、弘化年間(1844~1848)頃。
東京都立図書館所蔵/
Wikimedia Commons掲載画像
(パブリックドメイン)。

寺子屋と聞くと、子どもたちが静かに正座をして筆を動かす姿を想像しませんか。しかし、江戸時代の弘化年間(1844~1848年頃)に描かれた錦絵『文学ばんだいの宝』には、筆でいたずらをする子やとっくみあいをする子、人形で遊ぶ子まで生き生きと描かれています。年齢も使う教材もバラバラだった寺子屋ですが、ただ無秩序だったわけではありません。礼儀作法もしっかり教えられ、いたずらが過ぎれば罰則もありました。昔の子どもたちも、今と変わらず元気いっぱいだったようですね。

参考:東京都立図書館「文学万代の宝」

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2.人の名前も大事な教材

「増字五体名頭字」の公開冒頭画像
『増字五体名頭字』、1846年刊、山城屋新兵衛出版。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

寺子屋では、基本となる「いろは」を覚えた次の段階で、人の名前によく使われる漢字を重点的に学びました。当時使われていた「名頭字(ながしらじ)」と呼ばれる教材には、「源・平・藤・橘・孫・彦」といった氏名によく登場する文字がズラリと集められています。手紙のやり取りをするにも、将来商売をするにも、相手や自分の名前を正しく読み書きできることは欠かせません。漢字の勉強が、そのまま大人になってからの人付き合いや仕事の準備に直結していたのですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第3節

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3.算数には「ねずみ算」も

「新編塵劫記」49コマ。国立国会図書館がねずみ算の掲載箇所として紹介するページ
吉田光由著『新編塵劫記』3巻、刊行年不明、49コマ。
国立国会図書館所蔵・国立国会図書館デジタルコレクション
(パブリックドメイン)。

昔の算数の本には、日々の暮らしに役立つ計算だけでなく、ちょっと遊び心のある問題も載っていました。そろばんの教科書として広く親しまれた『塵劫記(じんこうき)』の系統には、倍々に増えていく計算を楽しむ遊興的な問題がたくさん収録されているのが特徴です。田畑の面積や川・堤の工事に関する実用的な計算と、子どもが面白がるパズルのような問題をうまく取り混ぜる工夫は、現代の算数ドリルにも通じるものがありますね。

参考:国立国会図書館「江戸の数学」

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4.飽きないように絵を入れた

「七ツいろは並絵抄」の公開冒頭画像
『七ツいろは並絵抄』、吉田屋文三郎出版、刊年不明。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

「文字ばかりの教科書では、子どもがすぐに退屈してしまう」という悩みは、今も昔も同じだったようです。幕末の頃には、そんな子どもたちの興味を引くために、鮮やかな色刷りのイラストを取り入れた「いろは」の学習書も刊行されるようになりました。その代表例である『七ツいろは並絵抄』も、視覚的な工夫を伝える貴重な資料として紹介されています。楽しくページを眺めながら自然と文字に親しんでもらうという発想は、江戸時代からすでに存在していたのですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第2節

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5.同じ紙に何度も書いた

「習字帖〔一ばん ; 二ばん〕」の公開冒頭画像
『習字帖〔一ばん ; 二ばん〕』、書写年・筆者不明。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

寺子屋の文字練習では、まず師匠が書いたお手本をじっくり見ながら、正しい筆の動かし方を身につけました。当時は白い紙がとても貴重だったため、練習用の草紙(ノート)は使い捨てにせず、真っ黒になるまで上から繰り返し文字を重ねて練習したそうです。画像の『習字帖』は、師匠が生徒に与えた直筆の手本を綴じたものとして伝わっています。師匠から手本をもらい、それをまねて何度も書くという地道な反復練習が、昔の学びの出発点でした。

参考:東京学芸大学「往来物」第2節

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6.漢字は歌で覚えた

「小野篁歌字尽」の公開冒頭画像
『小野篁歌字尽』、1683年刊、鱗形屋出版。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

形がよく似た紛らわしい文字を区別して覚えるのは、昔の子どもたちにとっても大変な作業でした。そこで活躍した『小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)』は、五七五七七のリズムに乗せて楽しく暗記する学習書として人気を集めました。木へんや魚へんなど共通する部首を持つ文字を並べ、それぞれのつくりや読み方を和歌調のフレーズで一気に覚えられるよう工夫されています。声に出して何度も唱えて記憶する方法は、現代の語呂合わせにもそっくりですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第3節/同館の別本を使った翻刻・解説(PDF)

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7.魚や貝も漢字の勉強に

「日用重宝万文字尽」の公開冒頭画像
『日用重宝万文字尽』、1806年刊、仙鶴堂・鶴屋喜右衛門出版。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

江戸時代の教材には、身の回りにあるものの名前をジャンルごとに分類してまとめた本もありました。1806年に出版された『日用重宝万文字尽(にちようちょうほうまんもじづくし)』は、生き物や道具などをカテゴリー別に分けて言葉を集めた便利な学習書です。ただバラバラに文字を丸暗記するのではなく、同じ仲間の言葉を関連づけてセットで学ぶ方式がとられていました。本のタイトルにある「日用」「重宝」の通り、毎日の生活で本当に役立つ語彙を増やすための工夫ですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第3節

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8.物語の作者が手紙の先生に

「大全一筆啓上」の公開冒頭画像
式亭三馬撰『大全一筆啓上』、1817年刊。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

江戸時代に大人気だった小説家たちは、実は手紙の書き方を教える実用書も数多く手がけていました。たとえば1817年刊行の『大全一筆啓上』をまとめたのは、滑稽本の名作『浮世風呂』『浮世床』で知られる式亭三馬です。彼のほかにも、『東海道中膝栗毛』の十返舎一九や『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴といった有名作家たちが、手紙の文例集を執筆しています。面白い物語で読者を楽しませるだけでなく、庶民に日常の文章作法を教える仕事もこなしていたのですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第4節/国立国会図書館による式亭三馬の解説

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9.約500年使われた教科書

「庭訓往来絵抄」の公開冒頭画像
槐亭賀全編『庭訓往来絵抄』、元治年間(1864~1865)刊、文江堂出版。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

日本の歴史上、驚異的なロングセラーとなった学習書が『庭訓往来(ていきんおうらい)』です。なんと南北朝から室町時代頃に編まれてから明治の初めまで、時代を超えて幅広く使われ続けました。ずっと同じ本をそのまま使っていたわけではなく、時代に合わせてさまざまな改訂版や解説書が出版されたのが長く愛された理由です。1年12ヶ月の往復書簡(手紙)の形を取りながら衣食住や職業の言葉を学べる仕組みで、後には子どもにもわかりやすい絵入りの版も登場しました。

参考:東京学芸大学「往来物」第4節

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10.勉強が双六になった

広重「春興手習出精双六」。手習いを題材にした絵双六
広重『春興手習出精双六』、1843~1847年頃。
国立国会図書館所蔵/
国立国会図書館「本の万華鏡」掲載画像
(著作権保護期間満了)。

江戸時代には、寺子屋での手習い(勉強)をテーマにしたユニークなボードゲームも作られました。浮世絵師の歌川広重が描いた『春興手習出精双六』は、スタートの「弟子入りいろは」から上がりの「亀戸天神」を目指すという仕立てになっています。勉強を頑張った先に学問の神様が待っているという構成で、途中のマスには「褒美」だけでなく、居残りを意味する「留められ」や恐怖の「破門」まであります。当時の教材名も散りばめられており、遊びながら寺子屋の生活を体験できる一枚です。

参考:国立国会図書館「本の万華鏡」/資料の書誌・年代

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11.「いろは」にABCが登場

「英学捷径七ツ以呂波」の公開冒頭画像
阿部為任『英学捷径七ツ以呂波』、1867年刊、巴菽園・播磨屋喜右衛門出版。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

幕末になり外国との関わりが増えると、昔ながらの「いろは」の学習書にも時代の波が押し寄せました。大政奉還の年である1867年に刊行された『英学捷径七ツ以呂波(えいがくしょうけいななついろは)』は、伝統的な手習い本にローマ字の要素を組み合わせた画期的な一冊です。この本では濁音や半濁音も一覧に加えられ、さらに「いろは歌」の最後の文字を従来の「京」ではなく「ん」に置き換えています。古くからの教材を土台にしつつ、外国語の音にも対応しようとした工夫が見られますね。

参考:東京学芸大学「往来物」第2節

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12.漢文まで左から右へ

「童蒙英学初歩」の公開冒頭画像
島一徳校『童蒙英学初歩』、1871年刊。
東京学芸大学附属図書館所蔵
(パブリックドメイン)。 画像は当サイトで縮小・WebP形式に変換。

幕末から明治初期にかけての古い本の変化は、書かれている内容だけにとどまりません。明治4年(1871年)に出版された『童蒙英学初歩』では、なんと従来は右から左へ並んでいた序文や挿絵の解説が逆向きに配置されているのです。西洋の学問や洋装本のスタイルを急ピッチで取り入れようとしたこの時代には、和装本と洋装本、そして縦書きと横書きのルールが混在する不思議な現象が起きていました。「本をどちらの方向から読むか」という根本的な部分まで、大きく揺れ動いていたのですね。

参考:東京学芸大学「往来物」第2節

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まとめ

寺子屋の授業風景や当時の教科書には、毎日の暮らしに直結した実践的な学びがぎっしり詰まっていました。人の名前を正しく書き、季節の手紙を送り、そろばんで計算をする。そのための基礎練習に歌やカラフルな絵を取り入れ、子どもたちが飽きずに楽しく学べるように工夫する姿は、現代の教育にもそのまま通じるものがありますね。

江戸時代の古い教科書は、ただ難しいくずし字が並んでいるだけの退屈な本ではありません。当時の大人たちが「子どもたちに何を学ぶ必要があると考えたのか」を今に伝えてくれるタイムカプセルのような資料でもあります。もし博物館や図書館のデジタルアーカイブなどで見かける機会があれば、ぜひじっくりと中身をのぞいてみてくださいね。

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